健康,  腸内環境

クロストリジウム腸炎の7割以上が改善した便移植の話

クロストリジウム腸炎(クロストリジウム・ディフィシル感染症)という病気がありますが、この病気はクロストリジウム・ディフィシルという腸内細菌が引き起こす感染症です。先日、記事の中でこの感染症の恐ろしさについて書かせていただきました。

上の記事の中では、治療法として便移植が注目されていることについても触れましたが、今回の記事では、前回の記事で十分に書ききれなかった便移植に関する論文などを紹介したいと思います。

便移植はよくFMT:Fecal Microbiota Transplantationなどと呼ばれますが、この記事では日本語の便移植と書きます。

この記事を書いている私は、腸内細菌の研究に5年ほど関わっていて、社会人博士課程の学生として公衆衛生を学んでいます。

便移植ってなに?どんなことをするの?

便移植というのは、その名の通り、健康な人の糞便から腸内細菌を取り出し、病気の人に投与する治療方法です。今回の記事ではクロストリジウム腸炎での研究を取り上げますが、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の治療でも用いられているようです。

細かい手技などはまだ確立していないんじゃないかと思いますが、一般的には、健康な人の糞便を生理食塩水に溶かし、ろ過などをしてから病気の人の腸へ投与しているようです。

講演会などで、演者の先生が特別サービスだよ!といって便移植のグロテスクな写真を見せていましたが、何とも言えない気持ちになるサービスでした。

便移植はどこの病院でもできるような治療ではないとは思いますが、近年はできる病院も徐々に増えているのではないかと思います。細かい手技が決まっていないと述べましたが、そもそも便移植はドナーの人の便によって効果が変わってしまいますので、ドナーの個体差を考慮して手技を決めていくとなると、相当のサンプル数が必要になると思います。

そう言うことからも、細かい手技を決めるのはかなり大変じゃないかな~と思います。

ですが、先ほど紹介した講演での先生の話によると、効果が高いスーパードナーはいるっぽい。と言うことと、スーパードナーがいなければ、色々な人の便を混ぜたミックスジュースにしたほうが、成功率を上げるみたいです。もし、このスーパードナーになったら、便を提供してお金持ちになれるという時代が来るかもしれませんね。

あまりにも効果が高く研究を停止したオランダの研究

さて、クロストリジウム腸炎の治療において、便移植を一躍有名にさせた研究があります。New Engl J Medという雑誌に掲載された、オランダの研究ですが、この研究では、対照群では2~30%しか回復しなかったのに対して、便移植では80%以上の人が回復し、回復しなかった人に対して2回目の便移植を行った結果90%以上の人が回復したのです。

あまりにも便移植の効果が高かったことから、倫理的配慮により試験は中断され、全ての研究参加者に便移植が施されたほどでした。

おそらく、この研究あたりを境に、クロストリジウム腸炎の治療の切り札として、便移植は名を上げていったんじゃないかなあと思います。

ちなみに、この研究で対照となっているのはバンコマイシンという抗生物質です。当然ですが、クロストリジウム腸炎の原因であるクロストリジウム・ディフィシルに対して効果があることが分かっている抗生物質になります。

ネットワーク解析で明らかにされた便移植の効果の高さ

次に、今度は最新の論文を紹介したいと思います。研究のエビデンスでゴールドスタンダードとなっているメタアナリシスという方法ですが、メタアナリシスを改良した、ネットワークメタアナリシスという解析方法が近年、開発され、少しずつ論文も増えてきています。

メタアナリシスというのは、複数の論文を統計的に統合して、一つの結論を導き出す手法です。そして、このネットワークメタアナリシスというのは、これまで統合することができなかった、測定項目が異なる研究でも統合して比較することができるという画期的なメタアナリシスです。

新しい研究方法なので、私もあまり理解できていないところがあるのですが、まず、上の左側の図をみてみましょう。治療法別の回復率をのせていますが、普通の便移植が最も回復率が高く、次いで便移植と一緒に抗生物質(バンコマイシン)を摂取した場合、自分の便を用いた便移植をした場合という順番になっています。

自分の便をドナーにするというのは、効果があるのではないかという仮説は昔からあって、腸内細菌は、微小なレベルの遺伝子変異を絶えず起こしているので、自分のおなかに一番フィットした腸内細菌になっているだろうという考えから来ています。

ですが、この論文の効果から見ると、①ただの便移植、②便移植+抗生物質、③自分の便を使った便移植という順に効果がありそうですね。

ですが、このデータはあくまでも粗データで、ネットワークメタアナリシスで結果を統合すると、上の図の右の表のような結果となります。

ちょっと分かりにくいのですが、言葉で説明すると、オッズ比という評価項目で、便移植 対 便移植+抗生物質・・・みたいな感じで、総当たりで比較した結果となります。この結果では、

  1. 通常の便移植
  2. プラセボ
  3. 便移植+抗生物質(バンコマイシン)
  4. 自家の便移植
  5. 抗生物質(バンコマイシン)
  6. 抗生物質(フィダキソマイシン)
  7. 抗生物質(バンコマイシン)+腸洗浄

という順番で効果が高かったようです。ブラセボが2番って何なんだよ!?と少しこの研究結果の妥当性を疑いたくもなりますが、それでも比較が難しい治療方法のランク付けをすることができたというのはこの研究の大きな強みですし、学術的な価値も高いと思います。

まとめ

2回にわたって、クロストリジウム腸炎に関する記事を書きましたが、本当に恐ろしい病気です。

先日記事にした通り、この危険な感染症はその多くが抗生物質投与によって、引き起こされますが、できるだけ抗生物質は使わないほうが良いとは分かっていても、風邪の症状などによっては、抗生物質でしっかりと治療するということが重症化予防のためにもとても重要なので、難しいですね。

一つ、予防法として考えられるのは、抗生物質の処方があったときには、ヨーグルトなどの発酵食品に加えて、サプリメントなども上手に活用して、乳酸菌、ビフィズス菌みたいなプロバイオティクスを摂取して、抗生物質を摂取した時の腸内環境のバランスを意識することかもしれません。それでは。

参考文献

  1. Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile. van Nood E, Vrieze A, Nieuwdorp M, Fuentes S, Zoetendal EG, de Vos WM, Visser CE, Kuijper EJ, Bartelsman JF, Tijssen JG, Speelman P, Dijkgraaf MG, Keller JJ. N Engl J Med. 2013 Jan 31;368(5):407-15. doi: 10.1056/NEJMoa1205037. Epub 2013 Jan 16. PMID: 23323867 LINK
  2. Rokkas T, Gisbert JP, Gasbarrini A, et al. A network meta-analysis of randomized controlled trials exploring the role of fecal microbiota transplantation in recurrent Clostridium difficile infection. United European Gastroenterol J. 2019;7(8):1051-1063. doi:10.1177/2050640619854587 LINK

食品会社勤務の企業研究員。公衆衛生の講座に在籍する、社会人博士課程の大学院生でもあります。食の機能性研究、腸内細菌の研究に軸を置いています。興味関心は公衆衛生、疫学。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Twitterやブログで発信しています。