今日、先週録画したアンサングシンデレラ(フジテレビ木曜10時~)を見ていたら、クロストリジウム腸炎にかかってしまう高齢者女性の話がありました。医療系のドラマでありがちですが、あんまり良く分からない病気の名前が出てきますよね。
このクロストリジウム腸炎(クロストリジウム・ディフィシル感染症)というのはクロストリジウム・ディフィシルという腸内細菌が引き起こす感染症で、潰瘍性大腸炎やクローン病などとならんで、腸管の病気の中でも非常に重い病気の一つです。
クロストリジウム腸炎はどんな病気?
クロストリジウム腸炎はクロストリジウム・ディフィシルという腸内細菌によって引き起こされる、重い下痢や腸での炎症を引き起こす感染症です。アメリカでは毎年1万4000人もの人がクロストリジウム腸炎で亡くなっていると言われており、病気と闘っている人はその10倍くらいいると言われているそうです。(2012年の論文の数字なので、今は大分人数が変わっている可能性が高いです。)
クロストリジウム感染症の発症メカニズムは、抗生物質などを投与することで腸内の細菌が激減した時に、その焼け野原のような腸で一気に勢力を広げ、感染症を発症させるというメカニズムだそうです。
クロストリジウム・ディフィシルは胞子という休眠状態になることができ、胞子になると細菌は煮沸や乾燥、冷凍などでも生き延びることができ、抗生物質もほとんど効かないです。つまり、この細菌は胞子になることで抗生物質投与後にも生存し、一気に勢力を拡大するようです。
このクロストリジウム・ディフィシルには毒素を作る遺伝子が複数あり、菌が少ない場合には腸を傷つけることもないようですが、数が多くなるにしたがって毒素を放出し、腸壁を傷つけたり、痛みを伴う下痢を起こしたりするようです。
また複数の抗生物質で治療を行っても改善しない場合には、生存割合も5割程度という恐ろしい病気です。
感染するというよりも、爆発的な増加
クロストリジウム・ディフィシルはどれくらいの人が保有しているのでしょうか?これは米国のデータなので、おそらく日本人では異なる数字になると思いますが、20~50人に1人くらいの割合でクロストリジウム・ディフィシルを保有しているそうです。
この割合を多いとみるかは分かれるところでしょうが、少ないという訳ではないですよね。探せば見つかるくらいの感じで保有しています。
つまり、少数のクロストリジウム・ディフィシルではクロストリジウム腸炎は発症せず、爆発的に増加すると発症すると考えたほうが正しいと思います。
クロストリジウム腸炎の治療法「便移植」の可能性
ここからクロストリジウム腸炎の治療方法について紹介したいと思います。といってもこの記事は治療方針をまとめている記事ではないので、もし、感染が疑われる方は、ちゃんと医師と相談してください。
通常の治療であれば、抗生物質と整腸剤などで腸内細菌のバランスを維持しつつ、下痢や炎症などの症状に対する、対処療法が中心だったと思います。
ですが、これまで効果的と言える治療法が見つかっていませんでした。しかし、2013年に腸内細菌を入れ替えるというパワープレイで治療する方法が開発され、一定の効果が見出されています。
「便移植」という言葉は聞いたことがある人もいると思いますが、健康な人の腸内細菌を便から取り出し、クロストリジウム腸炎の患者さんの腸に入れるという治療方法です。この試験は、写真で見ると、便を生理食塩水などでろ過して、腸内細菌だけ濃縮するという作業をしているのですが、完全に放送禁止の映像です。
もし興味があるようでしたら、あまりグロテスクではない症例報告のリンクをつけますので、見てください(LINK)。(そうは言ってもこのブログに画像をのせるのは適切ではないと思い、止めておきました)
便移植については、別の記事でまとめたいと思いますが、実はマウスレベルでは結構普通に行われています。例えば、腸内細菌を無菌にしたマウスに、太った人とやせた人の便から腸内細菌を移植して、腸内細菌と肥満の関係を研究するみたいなアプローチです。
というのもマウスは元々自分の糞を食べることがあるからです。犬とかも、たまに糞を食べようとする話を聞いたことがありますので、便を食べることで腸内環境をコントロールするというのは、動物が本能的に行っている体調管理なのかもしれません。
まとめ
そのうち記事にしようと思っていたタイミングでアンサングシンデレラで放送されたので、記事にまとめましたが、クロストリジウム腸炎は本当に腸の病気の中で、最も恐ろしいものの一つです。この治療法が確立されつつあるというのは大きな救いですが、安全で効果的な便移植というのが今後の課題となってきます。
また、記事でこんなことを書いておいでですが、治療で抗生物質はとても大切です。乱用することは望ましくありませんが、適切な処置として抗生物質が必要なことはありますので、この記事がそういった誤解を与えないよう付け加えます。
また下記の記事で便移植については論文などの紹介を含め、詳しく紹介しましたので、もし興味があったら読んで頂ければと思います。それでは。