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過敏性腸症候群治療ガイドライン:低FODMAP、グルテンフリーについて

2021-05-05

はじめに

こんにちは、この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。先日、イギリスの消化器病学会から過敏性腸症候群(IBS)の治療ガイドラインが発表されました(参考文献)。このガイドラインの一番のポイントとなる推奨項目については下記の記事で紹介しました。

ですが、ガイドラインの内容が重たく、全ては紹介できませんでした。この記事では、中でもわたしが興味を持っていた食事療法のポイントについて紹介をしたいと思います。

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Pon(ブロガー)
食品会社勤務。社会人博士課程の大学院生。腸内細菌や食品の機能性研究、公衆衛生などに興味があります。Twitterはこちら。気になった論文を共有したりしています。

過敏性腸症候群(IBS)の食事療法のポイントについて

はじめに、一般的な過敏性腸症候群(IBS)の食事療法のポイントを紹介したいと思います。こちらの参考記事に記載した内容と重複します。

  1. 水溶性食物繊維を摂取する。(2-3 gから少しずつ量を増やす)
  2. 不溶性食物繊維の摂取量を減らす。
  3. 発酵性の糖質(オリゴ糖、二糖類、単糖類)や糖アルコール類の摂取を減らす。(専門家の指導の下で実施する)(⇒これが低FODMAP食です!
  4. プロバイオティクスは、特定の菌種、菌株を推奨しないけれど有効。
  5. ペパーミントオイルは有効な可能性がある。
  6. ポリエチレングリコールは便秘型の患者には有効な可能性があります。

といった感じです。はっきりと推奨できる内容がなく、不溶性食物繊維を減らし、水溶性食物繊維を増やすと言うのが一番大事そうです。

発酵性の糖質、不溶性食物繊維は腸への負担が大きいので避けるというのは、頭の片隅に入れておくとよいかもしれません。

個人的には、なんで水溶性食物繊維はいいの?という疑問が残ります…

一方で、プロバイオティクスはそこまで推しているわけではないけれど、摂取しないよりは摂取した方が良いみたいです。ペパーミントオイル、ポリエチレングリコールは有効かもしれないけれど、副作用もあるので注意してね!という感じです。

また、この推奨項目の中では一切触れていないのですが、過敏性腸症候群(IBS)の食事指導にはグルテンフリー食とFODMAP食というものがあります。

この記事では、グルテンフリー、FODMAP食について、発表されたガイドラインから解説をしたいと思います。また、食物繊維について紹介したいと思います。

食物繊維から見てみましょー!

サイリウム種子の食物繊維だけが過敏性腸症候群(IBS)を改善させた!

参考文献(補足資料)より改変引用

上のグラフはガイドラインの補足資料に含まれていたメタアナリシスの結果を改変引用したものです。

グラフ内にある塗りつぶしたひし形が1よりも完全に左側にあるときが効果あり、完全に右側のときが効果なし。1の線と重なっている場合には、どちらとも言えないことを表しています。

この結果を見ると、効果ありだったのはサイリウム(オオバコ)の種子だけでした。サイリウムには水溶性の食物繊維が多く含まれ、特定保健用食品でも使われています。亜麻種子も効果はありそうですが、バラつきに埋もれてしまっています。

このように効果がありそうな食物繊維素材には水溶性食物繊維が多く含まれている点が特徴的です。

その一方で、食物繊維全体の影響を調べた研究では効果がありませんでした。このような結果から、水溶性食物繊維で特に過敏性腸症候群の改t善効果が得られたと考えてよさそうです。

個人的には、どうして水溶性食物繊維だけいいの?というのはスッキリしないのですが、水溶性食物繊維は、粘性があり、消化吸収をゆっくりにしてくれます。一方で、不溶性食物繊維は水分を含むと膨らんで、腸を刺激します。

もちろん、共通した機能も多くあると思いますが、こういった特徴の違いが影響したのかもしれません。

つぎは低FODMAP食についてです!

低FODMAP食は短期で試す、もしくは専門家に相談しましょう!

腸管で発酵する食材を除いた食事療法:低FODMAP食

はじめにFODMAP(フォドマップ)について紹介をしたいと思います。Wikipediaによると下記のような説明があります。

フォドマップ(FODMAP)は小腸内で消化・吸収されにくい糖類(Fermentable:発酵性、Oligosaccharides:オリゴ糖、Disaccharides:二糖類、Monosaccharides:単糖類、Polyols:ポリオール)の略称である。

Wikipediaより引用

低FODMAP食というのは、このように腸管内で発酵する食材を避ける食事療法と言うことになります。

ただ、上記の説明だけでは、あんまり良く分からないですよね?具体的には、下記のような食材を避ける必要があります(Wikipedia参照)。

1.フルクタン含まれる食品
コムギ 、 ライムギ 、 オオムギ 、
タマネギ 、 ニンニク 、 キクイモ、
グローブアーティチョーク 、 ビート 、
タンポポの葉 、ネギの白い部分、
新タマネギの白い部分、 芽キャベツ 、
サボイキャベツ
(アスパラガス 、 フェンネル 、 赤キャベツ 、 ラディッキオにも中等量含まれているが、推奨される量であれば摂取可能)
2.プレバイオティクス
フルクトオリゴ糖(FOS)、
オリゴフルクトース、
イヌリンなど
3.ガラクタン含有食品
豆類全般
(ただし、緑色の豆 、缶詰のレンズ豆 、発芽緑豆 、 豆腐 (絹以外)、テンペは比較的少量)
4.ポリオール含有量
【果物】
りんご 、 アプリコット 、 アボカド 、
ブラックベリー 、 チェリー 、 ライチ 、
ネクタリン 、 モモ 、 ナシ 、 プラム 、
プルーン 、 スイカ

【野菜】
カリフラワー 、 マッシュルーム 、
絹さや豆
(キャベツ 、 チコリ 、フェンネルには中等量含まれているが、推奨される量であれば摂取可能)

【甘味料】
イソマルト 、 マルチトール 、
マンニトール 、 ソルビトール、
キシリトール

低FODMAPはなんかむずかしいですね~
大変そうだし…

見ていただくと分かりますが、かなり幅広く、色々な食材に含まれています。これらを避ける低FODMAP食というのはかなり負担が大きい食事療法と言うことが分かります。食の楽しみも制限されます。そして、何よりも食材が偏ってしまうので、栄養バランスをコントロールが大変です。

FODMAPを避ける理由は、腸内細菌のエサとなり、腸管で発酵されることにより膨満感があるためです。しかし、裏を返せば、低FODMAP食は腸内細菌のエサが無くなってしまうため、腸内細菌のバランスが乱れるリスクがあります

多くの場合、発酵を行う腸内細菌は有用な細菌が多く、発酵によって産生する短鎖脂肪酸はさまざまな健康機能が報告されています。つまり、低FODMAP食はお腹の膨満感を和らげる効果はありますが、長期的に考えると、腸内環境を悪くするというデメリットもあるということになります。

では次にこの低FODMAP食の効果を見たいと思います!

低FODMAP食は効果ありの可能性、ただし、従来療法とは差がない

参考文献(補足資料)より改変引用

ここから低FODMAP食のエビデンスの紹介になります。全体的に見ると、低FODMAP食は効果があります。ただ、大きな問題があり、通常の食事療法と比較した場合には効果が小さく、統計的には差がありませんでした。

つまり、低FODMAP食は過敏性腸症候群(IBS)の食事療法としては効果がありそうです。しかし、負担の大きさや長期的な腸内環境への影響を考慮すると、そこまでのメリットはないかな~、ということです。

残念と言えば残念ですが、以下、わたしの考え方になります。

低FODMAP食を食事療法の基本にするのは大変すぎるし、腸内環境が悪くなってしまうのであまり良くないのではないかなと思います。
一方で、お腹の膨満感が気になるときには、低FODMAP食を意識することで、少し和らぐかもしれません。
このように、自分の体調に合わせて、短期的な食事療法としては良いかなと思いました。

グルテンフリーはエビデンスがありません。通常の食事療法でOK

さいごにグルテンフリー食について書きたいと思います。

低FODMAP食よりは知名度があるので、ご存じの方も多いかもしれません。

小麦に含まれるグルテンというタンパク質に対してアレルギーがある病気をセリアック病といいますが、このセリアック病の人に向けた食事がグルテンフリー食になります。セリアック病の人は食事制限の負担がものすごく大きいので、グルテンフリーの食材が一般的になることはとても良いことです。

しかし、実際にはグルテンフリーは健康とか、体調やメンタルヘルスが改善みたいな印象操作も多くみられます。はっきりと書きますが、これらは大きな誤解です。グルテンフリー食が健康に寄与するといったエビデンスはないと考えてよいです。

今回のIBSの治療食としてもグルテンフリー食を推奨する考えがあるようです。データを見ると、セリアック病患者ではない場合でも、グルテンフリーで効果があった試験がありました。しかし、メタアナリシスでは効果が無かったことから推奨しないという結論でした。ガイドラインの考察によると、小麦に含まれる食物繊維はほとんどが不溶性食物繊維のため、不溶性食物繊維の摂取を減らすことによる効果だったのかもしれません。

さいごに

ここまで読んで下さりありがとうございました。今回の記事をまとめると下記のようになります。

過敏性腸症候群(IBS)の食事療法としては、

  1. 水溶性食物繊維は摂取した方が良い。また、不溶性食物繊維は摂取しない方が良いです。
  2. 低FODMAP食は基本推奨しません。実施する場合には、栄養バランスや腸内環境を考えて、慎重に、専門家に相談しながら実施しましょう。
  3. グルテンフリー食は推奨しません。ただし、小麦に含まれる不溶性食物繊維を減らすことは改善につながる可能性があります。

という感じです。グルテンフリー食も低FODMAP食もかなり食事制限が厳しいので、無理してやるのは賛成できないというのがわたしの考えです。食事制限が厳しいと、食べれるものが限られてしまい、逆に栄養バランスが悪くなったりする可能性もあるのは特に注意です。

一方で、セリアック病(小麦アレルギー)の人は一定数いますので、グルテンフリー食が認知されることはよいことです。また、低FODMAP食も腹部の膨満感が厳しい場合には専門家と相談しながら試してみるのは良いのではないかなと思います。

この記事が参考になったら嬉しいです。
それでは。

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参考文献

Vasant, D. H., Paine, P. A., Black, C. J., Houghton, L. A., Everitt, H. A., Corsetti, M., Agrawal, A., Aziz, I., Farmer, A. D., Eugenicos, M. P., Moss-Morris, R., Yiannakou, Y., & Ford, A. C. (2021). British Society of Gastroenterology guidelines on the management of irritable bowel syndrome. Gut, gutjnl-2021-324598. Advance online publication. https://doi.org/10.1136/gutjnl-2021-324598

  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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