先日、安倍首相が潰瘍性大腸炎により2度目の辞任する意向を示されました。潰瘍性大腸炎は近年、増加し続けている、腸の自己免疫疾患で大変な病気です。
原因不明の難病というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、潰瘍性大腸炎はクローン病と合わせて炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれています。
この記事では潰瘍性大腸炎の症状、原因、特徴から腸内細菌との関連など、潰瘍性大腸炎の一般的な紹介をしたいと思います。
この記事のポイントは以下の通りとなります。
- 大きな特徴は免疫細胞が自分の細胞を攻撃する自己免疫疾患
- 原因はストレスや遺伝、腸内微生物叢(そう)など。
- 便移植などで回復した例もあります。
この記事を書いている、私は食品メーカーに勤務し、腸内環境の研究を5年以上続けています。社会人博士課程で大学にも通っており、公衆衛生の講座に在籍しています。
今回の記事は少し古い記事ですが日本内科学会の教育講演の記事などを参考に執筆しました(参考文献1)。
※ 医療従事者ではないので、治療方法などの情報は精査しながら記事にしました。
潰瘍性大腸炎ってどんな病気でどんな症状が出るのか?
病態
潰瘍性大腸炎は日本で約20万人いると言われており(クローン病は6万人)、米国に次いで多いとも言われています。そして、患者数が爆増していて、年間約5000人ずつくらい増加しているそうです。
難病指定されている病気ですが、それは完全に治る病気ではなく、薬などでコントロールしながら、ずーっと継続的に治療を続けなければいけないからと言うことです。
ではこの潰瘍性大腸炎はどんな病気なのかというと、自分の細胞を外敵と間違えて攻撃してしまう、自己免疫疾患と呼ばれる病気の一つです。
症状がかなり激しく、下痢、軟便、血便などを繰り返すようです。また、出血によるのかなあと思いますが、貧血の症状が出る場合もあるようです。出典が分からなかったため、参考までではありますが、血便や下痢というよりも粘膜が剥がれて出てきたんじゃないかと感じる患者さんもいるそうです。
このようにかなり激しい症状を伴いますので、気づかないで悪化させてしまうということは少ないようですが、それでも痔だと思って放置してしまうこともあるそうです。
発症要因
潰瘍性大腸炎の原因ははっきりしないことが多いようですが、様々な要因が重なって発症しているという可能性が高いようです(多因子疾患といいます)。とはいっても、感染症、交通事故、遺伝子疾患などのように、はっきりとした原因がない場合には、多因子疾患ということが多いので、多因子疾患と言うこと自体は、改めて言うほど珍しいわけではありません。
免疫系の疾患と言うこともあり、環境による影響があるのに加え、遺伝的な要因も示されているようですが、同じ炎症性腸疾患のクローン病と比較すると、潰瘍性大腸炎の遺伝子要因ははっきりしないようです。
参考文献2に潰瘍性大腸炎に関連する候補遺伝子が報告されていますが、欧州と南アジアで一貫した結果が得られなかったので、遺伝的要因については、これだ!と断定するのは難しそうです。
また、環境要因としては、腸内細菌の多様性の低下、口腔内細菌の変化、ストレスなどとの関連があるようです。
潰瘍性大腸炎と腸内細菌との関連
潰瘍性大腸炎の原因として注目されるのは、やはり腸内微生物叢(そう)になります。
ストレートに特徴を言うと、腸内生菌の大きな変化は多様性指数の低下(ディスバイオーシスとも言います)、とサッカロマイセス属と呼ばれる酵母の増加です。酵母は分類学上は細菌ではなく菌類になるので、ここでは腸内微生物叢(そう)と書きました。
まず左上のグラフは南アジアと欧州の潰瘍性大腸炎患者の多様性指数と健常者の多様性指数を比較していますが、潰瘍性大腸炎の患者の腸内細菌は多様性が下がっています。
一般的にはこのような状態をディスバイオーシスと呼び、多様性指数が下がると、潰瘍性大腸炎に限らず、健康上の問題が起こることが知られています。
さらに、上のグラフは潰瘍性大腸炎と健康な人の腸内細菌と腸内細菌(左)および、カビ・酵母(右)を比較した結果です。
この結果を見ますと、腸内細菌でも変化があるのですが、カビ・酵母で激しい変化が見られたことが想像できます。
今回、データは紹介していませんが、興味深いことに、腸内を無菌にしたマウスでは潰瘍性大腸炎が起こらないという研究もあるようで、何かしら腸内にいる微生物が発症に関わっているということは間違いないと考えられます。
また、クロストリジウム腸炎ほどではないですが、便移植によって回復することもあるようです。
潰瘍性大腸炎を抑える薬はあるが、特効薬がない
最後に、少しだけ治療についても書きたいと思いますが、潰瘍性大腸炎は基本的には根本治療方法が見つかっておらず、症状に対して治療薬を処方するというのが一般的なようです。
また、下記リンクの記事で便移植の紹介もさせていただきましたが、潰瘍性大腸炎もクロストリジウム腸炎と同じように、便移植によって改善することが報告されているようです。
ただ、クロストリジウム腸炎と異なり、薬による病状のコントロールが良好なことが多いうえに、便移植によってほぼ100%改善するという訳でもないため、便移植への抵抗を含め総合的に考えて、現時点では、積極的に便移植を進めるお医者さんは少ないのではないかと思います。
まとめ
ここまで読んでくださりありがとうございました。クロストリジウム腸炎もそうでしたが、潰瘍性大腸炎も非常に恐ろしい病気だなと思います。1日に20回以上下痢をするという話を初めて聞いたときには、完全に普通の生活はできないなと思いました。
この記事を書くまでは、実はほとんど潰瘍性大腸炎には便移植の効果はないものと思っていましたが、効果を支持する論文もありそうでしたので、個人的にはもう少し勉強したいなと思いました。
そして、改めて腸内細菌ってやっぱり大切なんだな、と思いました。
参考文献
- 日比紀文、緒方晴彦、潰瘍性大腸炎の病態と治療、日本内科学会講演会 教育講演11、日本内科学会雑誌97:9, 2008 LINK
- Mar JS, LaMere BJ, Lin DL, et al. Disease Severity and Immune Activity Relate to Distinct Interkingdom Gut Microbiome States in Ethnically Distinct Ulcerative Colitis Patients. mBio. 2016;7(4):e01072-16. Published 2016 Aug 16. doi:10.1128/mBio.01072-16 LINK