こんにちは、この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。先日、別の記事で脳腸相関について紹介をさせていただきました。
脳腸相関は脳と腸には強いつながりがあるんだよ~ということなんですが、前回の記事では過敏性腸症候群やストレスについて書きましたが、今回の記事では落ち着きがない子供たちと腸内環境に関するマウスの研究を紹介したいと思います。
この記事のポイント
- 腸内細菌が無いマウス(無菌マウス)は、落ち着きが無いことが知られています。
- 腸内細菌を与えると落ち着きを取り戻しますが、改善するのは子供のときだけで、大人のマウスでは改善が見られませんでした。
この記事を書いているわたしは、企業研究員として食や健康に関する研究をしています。博士課程で病気の原因を研究する疫学の研究も行っています。腸内環境については5年間くらい研究を続けています。
この記事は下記の腸科学という書籍を参考に、実際の論文を見て、考察を加えた記事になります。よかったら、下記の書籍も読んで下さい。
ストレスと腸内環境は関連があります
今回の記事の内容に入る前に少しだけ脳腸相関について紹介させてください(詳しくは下記の記事がオススメです)。
脳腸相関というのは、わたしたちの脳と腸がつながっていて、互いに影響を与えている関係を言います。ポイントは、
- 脳から腸に無数の迷走神経でつながっていること
- 腸内細菌によって作られた、短鎖脂肪酸、GABA、セロトニンなどの物質が、血管を通して腸から脳に送られ、栄養となっていること
です。じつはこのような腸内環境と脳の関連が大きく注目されるようになったのは、いくつかの研究がきっかけとなっていますが、今回の記事では、その中の一つ、腸内細菌をもたない無菌マウスには、異常なほど落ち着きがないことを発見した研究を紹介したいと思います。
腸内細菌がないマウス(無菌マウス)は異常に落ち着きがなかった!
みなさまはスカイツリーの展望台から外に、ガラスも柵もないけれど、出れるよーと言われたらどうしますか?わたしは高所恐怖症なので、絶対に拒否しますね!
今回紹介する研究は、そんなことをマウスで試した面白い研究です(参考文献2)。
マウスの知能や精神状態などを調べるために、迷路などを使った研究というのが行われることがあります。よく研究で使われる迷路については、参考文献3に分かりやすくまとめられています。
今回の研究では、そのなかの高架式十字迷路という迷路を使っているのですが、上の左のイラストのように、高い場所に十字路を置いて、2つの橋には壁があり(クローズドアーム)、残り2つの橋には壁がありません(オープンアーム)。そして、マウスがどんな行動をとるかを観察するような研究デザインです。
右上の図にその結果をのせていますが、オープンアームはとても危険なので、通常のマウスは時間が経つにつれ、クローズドアームにとどまるようになります。ところが、腸内細菌がない無菌マウスはこのオープンアープに行く回数が減らないんです。
マウスの精神状態を確認するために、ストレスの指標になる血液中のグルココルチコイド(人間で言うとコルチゾールという物質に当たります)の量を測定してみると、無菌マウスのほうが通常のマウスよりもグルココルチコイドの濃度が高い結果が出ました。
つまり、無菌マウスは普通にストレスを感じているのに、オープンアームに出ていくことを繰り返していたんですね。詳しくはわかりませんが、学習能力がとても低い、記憶障害があるなど、知的な面で何かしらの学習障害がみとめられる可能性が考えられます。
腸内細菌によって、学習障害が起こるというのは、とても興味深いです。
この研究が大きなきっかけとなり、腸内細菌がマウスの脳神経に働き、マウスに落ち着きをあたえたり、学習能力を高めているかもしれないという研究分野が非常に盛り上がったようです。それでは、つぎに、この研究とは逆に無菌のマウスに腸内細菌を与えた例を紹介したいと思います。
大人になると、腸内環境での改善効果が小さかった
さきほどの研究では無菌のマウスに見られた異常行動を紹介しましたが、つづいて、もうひとつ別の研究(参考文献4)を紹介したいと思います。
この研究は、先ほどとは逆に無菌のマウスに腸内細菌を移植した影響を調べた研究ですが、初めにどのような研究をしたのか、上の左の図をもとに紹介したいと思います。
この研究では、四角い箱の中にマウスを離し、どんなふうに動くかを記録した研究です。赤い線が動いた軌跡で、青い線のところでマウスが後ろ足で立ち上がっています。イラストされているのは、マウスを箱に話してから20分毎の軌跡を左から順に60分間を、通常マウス(上)と無菌マウス(下)で並べてあります。
通常のマウスも無菌のマウスも時間が経つごとに、動きも立ち上がる回数も少なくなっていくのがイラストで分かりやすく示されていますね。ところが、無菌マウスと通常マウスを比べてみると、無菌マウスは通常マウスに比べて、活動量の減少が少なく、時間がたっても比較的動き続けていることが分かります。ここまでは、先ほどの研究とだいたい同じで、やっぱり無菌マウスは落ち着きがないと言えそうです。
次に、無菌マウスへ通常マウスの腸内細菌を移植して、立ち上がった回数を比較したものが、右の2つのグラフです。上のグラフが子供のときに腸内細菌を移植した場合、下のグラフが大人になってから移植した場合です。
すると、どうでしょうか、上のグラフでは移植したマウスがだいたい通常のマウスと同じくらいの立ち上がり回数になっているんですが、下のグラフでは、移植したマウスが無菌マウスとだいたい同じくらいの立ち上がり回数になっています。
これはかなりびっくりする結果でした。腸内細菌を移植するタイミングが子供のときには、無菌マウス特有の落ち着かない性格を治すことができるけれど、大人になると、ほとんど治らないという衝撃の結果だったのです。
子供のときと、大人では腸内細菌の定着も異なると思いますし、性格が形成されていく時期に適切な治療を行った結果とも考えられます。いずれにしても、子供のときに腸内環境を改善させることが、とても重要と言うことが言えそうです。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございました。みなさまはどう感じましたか?
腸内細菌が落ち着きのない行動と関連がありそうだなと言うことも興味深いのですが、わたしにとってインパクトが大きかったことは、子供と大人での治療効果にかなり大きな違いがありそうだと言うことでした。
今回の試験はマウスの結果なので、わたしたちにも当てはまるとは言えませんが、ADHDなどは中学生、高校生くらいになると自然に治る人が一定数いると聞いたことがありますし、なんとなくわたしたちでも当てはまることってあるのかもしれないな~と思いました。
それにしても、子供の腸内環境って大事なんだな~と改めて感じます。基本的には腸内細菌のタイプは離乳後に固定されていくと言われますが(こちらの記事を参照)、子供たちの腸内環境についてはよく考えてあげたいなと思いました。
できるだけ食物繊維や発酵食品を食事に取り入れながら、食事に時間がかけられない場合には、例えば大麦などのようにご飯と一緒に炊飯するだけの材料を使ってみたり、オリゴ糖などを甘味料として使うなど、普段の料理でうまく取り入れるのもオススメです。
よかったら、参考にしていただければと思います。
参考資料
- 腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方 (早川書房)
- K. M. Neufeld N. Kang J. Bienenstock J. A. Foster. Reduced anxiety-like behavior and central neurochemical change in germ-free mice. Neurogastroenterol Motil. 2011 Mar;23(3):255-64, e119. doi: 10.1111/j.1365-2982.2010.01620.x. LINK
- 北山朋子 迷路 脳科学辞典(2014) DOI:10.14931/bsd.1814 LINK
- Normal gut microbiota modulates brain development and behavior. Rochellys Diaz Heijtz, Shugui Wang, Farhana Anuar, Yu Qian, Britta Björkholm, Annika Samuelsson, Martin L. Hibberd, Hans Forssberg, and Sven Pettersson. PNAS February 15, 2011 108 (7) 3047-3052 LINK