こんにちは。今年の8月にキリンビバレッジ、キリンホールディングスからプラズマ乳酸菌を含む商品で、免疫機能を訴求した機能性表示食品が公開されました。これは私の勉強のためにも絶対に記事にしておこうと思っていましたが、ちょっと遅くなりました。
食品メーカーではたらく研究職の方はご自身で調べられていると思いますので、この記事では、とにかくメカニズムとエビデンスに絞って、論文とか、届出資料なんか見ても良く分からない~と言う人向けに記事を書きたいと思います。
この記事のポイント
- 届出が受理されたプラズマ乳酸菌の商品は飲料3品、サプリメント2品
- メカニズムはプラズマサイトイド樹状細胞を活性化させることで、免疫の維持をサポートします
- エビデンスは、ややマイルドで6本の論文のうち、3本で効果ありでした
この記事を書いているわたしは、食品メーカーの企業研究員で、社会人博士課程の学生として、大学で病気の原因を研究する疫学を学んでいます。制度が開始した年から機能性表示食品の開発も行っていますので、機能性表示食品の届出に関する知識もあります。
届出商品の一覧
まずは、機能性表示食品として受理された商品一覧を見てみましょう。下記の5商品ですが、飲料3品、サプリメント2品です。飲料は水とフレーバー付きのミネラルウォーターで、クリアでカラダによさそうな商品で出している点など、すごく考えられているな―と思いますね。
サプリメントもプロフェッショナルとノーマルの2商品ありますが、こちらについてはどちらがオススメとかはありません。プロフェッショナルのほうは、噛んで食べることができるタイプ(チュアブル)のようで、値段が同じなら、わたしはこっちがいいな~と思いました。サプリメントのラインナップも、よく考えられていますね。
5商品という数が結構多くて、おぉ!って思いますが、そのラインナップを見ても、無駄がない、鉄板の5商品という感じがしてすごいな~と思います。
届出番号 | 届出年月日 | 届出者名 | 商品名 | 商品の区分 |
F181 | 2020/6/19 | キリンビバレッジ | iMUSE(イミューズ)水 | 加工食品(その他) |
F182 | 2020/6/19 | キリンビバレッジ | iMUSE(イミューズ)レモン | 加工食品(その他) |
F183 | 2020/6/19 | キリンビバレッジ | iMUSE(イミューズ)ヨーグルトテイスト | 加工食品(その他) |
F184 | 2020/6/19 | キリンHD | iMUSE professional(イミューズ プロフェッショナル)プラズマ乳酸菌サプリメント | 加工食品(サプリメント形状) |
F186 | 2020/6/19 | キリンHD | iMUSE(イミューズ)プラズマ乳酸菌サプリメント | 加工食品(サプリメント形状) |
届出表示とそのメカニズムの説明
次にこの「免疫機能の維持をサポート」という機能がどのような機能なのか、そのメカニズムを紹介したいと思います。その前に、この商品の正式な機能性の表示である届出表示を紹介します。
【届出表示】
本品には、プラズマ乳酸菌(L. lactis strain Plasma)が含まれます。プラズマ乳酸菌はpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています。
この文書を見ると、ポイントは下記の3点になります、
何によって?・・・プラズマ乳酸菌
何を通して?・・・プラズマサイトイド樹状細胞
どんなことが起こるの?・・・免疫機能の維持に役立つ
この中で、分からないのはプラズマサイトイド樹状細胞ですよね。プラズマ乳酸菌も良く分からないかもしれないし、免疫も良く分からないとは思いますが、プラズマサイトイド樹状細胞は、まじで分からないですね。
ということで、このプラズマサイトイド樹状細胞というのが何なのか?を説明したいと思います。
免疫機能は感染症などからカラダを守る仕組みですが、樹状細胞というのは、免疫機能の中でも最も重要な外敵を見つけて、攻撃の指示を出す司令官のような役割を担う細胞です。よく、パトカーに例えられます。
樹状細胞には、ミエロイド樹状細胞とプラズマサイトイド樹状細胞という2つがあります。それぞれの特徴は下記の通りです。
- ミエロイド樹状細胞は発熱などで外敵を死滅させます。
- プラズマサイトイド樹状細胞はウィルスの増殖を止めて感染をおさえます。
プラズマ乳酸菌はこのプラズマサイトイド樹状細胞の働きを活発にさせることで、免疫機能をサポートしているということになります。めちゃくちゃ説明を簡略化したので、説明が足りないと思った方は、参考文献2が分かりやすくておすすめです。
ちなみに、プラズマ乳酸菌というのはこの乳酸菌の名前で、プラズマサイトイド樹状細胞から名前を付けたのでしょう!
では、なんでこのプラズマ乳酸菌がすごいかというと、上記に説明した通り、普通は細菌が感染するとミエロイド樹状細胞が活性化して、プラズマサイトイド樹状細胞は活性化しません。
乳酸菌も細菌なので、通常はミエロイド樹状細胞が活性化するはずなのに、プラズマ乳酸菌は、細菌なのにプラズマサイトイド樹状細胞が活性化しているんです。だから、他の乳酸菌にはない独自の機能と言うことなんです!
ちなみに、この機能は生きて腸に届くかどうかは関係ないようで、死滅させたプラズマ乳酸菌でも同じ機能があるようです。これは、プラズマ乳酸菌が働いているのではなく、プラズマ乳酸菌に触れたプラズマサイトイド樹状細胞が働いているというメカニズムが分かれば納得かなあと思います!
プラズマ乳酸菌、調べてみると興味深い細菌ですね!では、次に、どれくらい効果があったのか、研究結果を紹介したいと思います。
システマティックレビューのちょっと緩めの説明
機能性表示食品として登録するには、ヒトでの臨床研究が複数必要で(例外もあります)、その結果をまとめる必要があります。このように複数の研究をまとめて1つの結論を出す研究をシステマティックレビューと言います。
キリンではプラズマ乳酸菌の臨床研究を6回も実施し、その論文をもとにシステマティックレビューを作成しています。研究分野を考慮すると6本の論文というのはかなり多いなと思いました。さすがですね。
その臨床研究結果を簡単にまとめたものが次の表となります。
研究番号 | 人数 | 摂取した形態 | 効果の有無 |
1 | 男女 100名 | 飲料(死滅菌) | 効果あり |
2 | 男女 214名 | ヨーグルト飲料(生菌) | 効果なし |
3 | 男女 657名 | カプセル(死滅菌) | 効果なし |
4 | 男女 38名 | ヨーグルト飲料(生菌) | 効果あり |
5 | 男女 111名 | カプセル(死滅菌) | 効果なし |
6 | 男 51名 | カプセル(死滅菌) | 効果あり |
6つの論文のうち3つで効果がありました。3勝3敗ですね。
3勝3敗で効果ありという結論を出すというのも、ややパワープレイに感じますが、さらに問題だと感じたのは、研究参加者が多い3つの研究で効果がなく、研究参加者が少なかった3つの研究で効果があった点です。
わたしの考えとしては、これで、総合的に考えて効果があったという結論は、本当はちょっと違うのかなと感じますが、メーカーで働く人の気持ちは理解できますので、致し方ないとも感じます。
また、これだけの論文数があればメタアナリシスという方法で複数の研究から1つの結論を統計的に導き出せるのですが、このシステマティックレビューではメタアナリシスが行われていません。
理由は書いていないので、憶測ですが、メタアナリシスの解析方法が参加者の人数が多い研究に重みをつけて解析するため、効果なしという結論が出ると分かってメタアナリシスを実施しなかったという可能性もあるかなと思いました。
まあ、このあたりの解釈は現状の制度では、企業が責任を負うということになっているので、キリンが効果ありと判断したのでしょう!文句があるなら商品を買わなければよい!と言うことになります。
消費者のほうがちゃんと勉強をしなければいけない時代だな~と思いますが、現実的には、そんなに分からないですよね・・・。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございました。キリンのプラズマ乳酸菌、いかがでしたか?メカニズムや、ヒトでのエビデンスが何となく理解できたらうれしいなと思います。
免疫という表示は、実は、2020年(今年)の3月にその表示を認めることを閣議決定しています。業界では機能性表示食品が受理されるのは相当先になるだろうなと考えられていたと思いますが、予想よりもかなり早く受理されることになり、驚かれています。
他の商品では、明治乳業のR-1をはじめ、いくつか有望な商品もあるかもしれませんが、それでも今回のキリンのように6本も論文があるという商品は少ないんじゃないかなと思います。
ではなぜ、こんなにも早くキリンが受理されたかについては、いくつか理由が推測できます。
一つは単純に、キリンのレビューが正確かつスピーディーだったという点。もう一つは、届出書類の確認を行った団体が日本抗加齢協会だった点です。
日本抗加齢協会で副理事長をされている森下先生(大阪大学)はアンジェスという大阪大学のバイオベンチャーの創業者でもあり、機能性表示食品の制度を作った内閣府規制改革推進会議委員も務めていた、一人で産学官全てを担える著名な先生です。ですので、先生の力(政治力)もうまく使って今回の一足早い受理にこぎつけたというのも大きいのかなと思います。
正直なところ、こういったあやしい点については、どうなのかな~とも思うのですが、ロビー活動(行政機関との交渉)は立派な企業戦略ですので、企業研究者としては見習うべき点でもあります。
キリンのプラズマ乳酸菌は細菌としてはとても面白いですので、わたしは商品も買ってみたいな~とは思いますが、正直なところ、機能性についてはあまり期待できないというのがリアルなところなのかなーと思います。
でも、食品はもともと効果がマイルドなものです。少しずつ自分の体を作っていくものだと思うので、長い目で考えながら、こういった商品を上手に取り入れるというのが大事かなと思います。
エビデンスなどについて、一部否定的な個所もありますが、プラズマ乳酸菌をきっかけに業界が盛り上がることを期待していますし、こういった商品が受理されたのはとても嬉しいニュースだと思っていますので、よかったら試してください。
それでは。
参考情報
- 消費者庁ウェブサイト
- 藤原 大介, 城内 健太, 杉村 哲, ウイルス感染防御を統括するプラズマサイトイド樹状細胞を活性化する乳酸菌の開発, 化学と生物53(9): 626-632 (2015) LINK
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