初めに
いきなりですが、問題です。次のマスクのうち、どれば最も効果的に感染を予防しているでしょうか?
- 2層ナイロンマスク
※ ノーズブリッジと不織布フィルターインサート付き
- 首回りも固定できる単層ポリエステル/ナイロンマスク
- 不織布ポリプロピレンマスク
- 3層綿マスク
- 綿製バンダナ(「バンディット」スタイル)
- 綿製バンダナを米国外科医総監のガイドラインに従って装着
- 単層ポリエステルネックカバー
どうでしょうか?分かりましたか?
答えは1の2層ナイロンマスク(※ノーズブリッジと不織布フィルターインサートを装着)でした。これは、JAMA Internal medicineという雑誌に掲載されていた論文の結果から出題した問題です。
この論文では、色々なマスク商品や装着方法を試して、新型コロナウィルスを想定した環境下での予防効果をまとめた論文です。特に布製のマスクと不織布の医療用マスクを比較したデータと、医療用マスクを様々なパターンで装着方法を変えて予防効果を比較している点が面白いです。私たちにとっては、普段の生活の中でも参考になるような情報がたくさん含まれていたので、紹介させていただきます。
この記事のポイント
- 布マスクは、この試験では医療用の不織布マスクと同等以上の効果を示した
- マスクの材質よりも、しっかりと口、鼻周りにフィットしている構造が重要と考えられる
- ノーズブリッジは効果がありそう
- なぜか洗濯した後の方が予防効果が高かった
この記事を書いているわたしは、食品会社で機能性の研究などをしている企業研究員ですが、社会人大学院生として大学で疫学(病気の原因を調べる学問)を学んでいる学生でもあります(詳しいプロフィールはこちら)。
色々なマスクの効果を比較した論文
さて、冒頭のクイズは分かりましたか?早速この論文の紹介に入りたいと思います。
この論文では、非常にたくさんのマスクを評価しています。評価方法はマスクを装着した状態で、動いてもらい、COVID-19と同程度の粒子にマスクの中が、どの程度曝露されたかを評価しています。
マスクは、先ほどの問題に出ていたマスクに加え、医療用の不織布マスクを下記の写真のように装着の仕方を変えて評価しています。
このように、おなじマスクで装着方法をいろいろと変えたデータは、予防効果との因果関係(原因と結果の関係)がはっきりするので有用だなと思います。
論文の結果は?
では、この試験の結果ですが、下記の通りの結果でした。結果の数値(%)がそれぞれのマスクのFFE(フィルター効率)で数字が大きいほど予防効果が高いことを意味します。
医療用でもっとも予防効果があるN95のマスクでFFEは98.4%とこの論文では出ています。それに対してどのくらいの違いがあるのかな~という感じでここからの結果を見ていただければと思います。
まず下の表では、布製のマスクの予防効果の違いを示しています。
Aのマスクだけ、鼻のノーズブリッジを入れる場合、入れない場合、そしてマスクの内側に不織布のインサートを装着した場合の検討をしています。さらに、洗った前後の違いも評価しています。
A
耳のループ付きの2層織物ナイロンマスク(リサイクルナイロン54%、ナイロン43%、スパンデックス3%) (Easy Masks LLC)で、オプションのアルミ製ノーズブリッジと不織布フィルターインサートを装着
・ノーズブリッジなし、インサートなし:44.7%
・ノーズブリッジあり、インサートなし:56.3%
・ノーズブリッジあり、インサート装着:74.4%
・ノーズブリッジあり、インサートなし(1回洗浄):79.0%
B
綿製バンダナを「バンディット」スタイルで斜めに一度折り畳んだもの49.0%
C
綿製バンダナを米国外科医総監の指示に従って多層の長方形に折り畳んだもの49.9%
D
ネクタイ付き単層織物ポリエステル/ナイロンマスク(ポリエステル80%、ナイロン17%、スパンデックス3%)(Renfro Corporation)39.3%
E
固定耳ループ付き不織布ポリプロピレンマスク(Red Devil Inc)28.6%
F
単層織物ゲイター/ネックカバーバラクラババンダナ(ポリエステル92%、スパンデックス8%。MPUSA LLC)37.8%
G
耳ループ付き3層織物綿マスク(綿100%)(Hanesbrands Inc)26.5%
結果はここまでです。(見にくい感じになってしまいすみませんでした。)
Aが最も予防効果が高いことは最初の問題の回答でも記載しましたが、実際に論文の中では、Aのマスクでも予防効果が高い装着方法、低い装着方法があり、一概にこのマスクだったから良かったと言えるのかどうかは少し疑問が残る結果でした。
また、興味深いことに、1回洗浄したマスクのほうが予防効果が高かったです。
次は、医療用のマスクの評価になります。
A
弾性耳ループ付き未修正の医療処置用マスク(Cardinal Health Inc)38.5%
B
耳のループを結び、サイドプリーツをタックインすることでマスクと顔の密閉性を高めた:60.3%
C
立体的に印刷されたイヤーガードで耳のループを頭の後ろで留めた:61.7%
D
23mmのクロータイプのヘアクリップで耳のループを頭の後ろで固定した:64.8%
E
マスクの上に3つの輪ゴムを配置し、中央の輪ゴムを参加者の鼻と顎の上に配置し、左右のサイドバンドを各耳の上にループさせることによって、マスク/顔のシールを強化した:78.2%
F
フィットしたマスクの上にナイロン製のひもの10インチのセグメントをスライドさせることによって、マスク/顔のシールを強化した:80.2%
こちらの試験では、本当に変わった装着方法があり、すごいなと思いましたが、数値を見ると、マスクがフィットするように介入を行った場合には、介入なしの場合にFFEが38.5%だったのが、いずれも60%以上となり、かなり改善がみられていました。
先ほども述べましたが、医療用マスクで知られているN95マスクのFFEは98.4%と圧倒的な予防効果でしたが、N95ではない医療用マスクを使うのであれば、布製のマスクでもよいので、装着の工夫をする方がよっぽど予防効率を高めていると考えられます。
まとめ
今回紹介した記事のポイントをまとめると以下のようになります。
・布マスク、不織布マスクともに予防効果にはバラつきが大きいです。 ・一部の布マスクは不織布よりも予防効果が高かったです。 ・しっかりとフィットするように着用することがとても大事で、フィットするための工夫は基本的には良い方向に働きそうです。 |
一方で、今回の結果で十分に言い切れないけれども、気になったこともまとめたいと思います。
①洗濯で予防効果が上がりました
これは論文の考察でも、良く分からないと記載されていました。ただ、洗濯するだけで予防効果が45%から79%に跳ね上がったのは事実で、興味深いです。この理由として考えられるのは、洗濯により生地が縮んで密になり、フィルター効率が高まった、あるいは、洗濯によって生地が縮んで、顔にフィットしたなどが考えられますが、今回の論文だけで言及するのは難しそうです。
②予防効果が高くても非現実的な着用方法も多い
例えば、マスクがフィットするようにゴムで固定したり、ナイロン製のひもで固定したりしていますが、論文の考察の中では、ゴムで固定した場合は数分で不快感を感じるなど長時間の着用は難しいことが言及されています。ナイロン製のひもについても、一人でうまく固定するのは難しいので現実的ではないと書いてありました。
以上のように、今回紹介したマスクの試験は色々と問題はあるのかもしれませんが、非常に実用的で参考になる点も多かったかなと思います。個人的にはノーズブリッジはマスクがずれないためにあると考えていましたが、ずれを防止するだけでなく予防効果も高めていたのは意外でした。
また、布マスクでも良いと個人的には思いますが、薄い綿のマスクは一番予防効果が低かったので、生地の細かさや厚さはちゃんと気にした上でマスクは選んだほうが良いですね。
読みづらい記事になってしまい、申し訳ないなと思いましたが、少しでも参考になったら嬉しいです。それでは。
参考文献
Clapp, Phillip W et al., Evaluation of Cloth Masks and Modified Procedure Masks as Personal Protective Equipment for the Public During the COVID-19 Pandemic. JAMA Internal Medicine, 2020 LINK