健康

運動がメンタルに効くというのはわかるけど、エビデンスは?という方へ

2020-09-21

こんにちは、この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。先日、運動に関する下記の記事を紹介させていただきました。

https://ponlab.info/2020/09/15/step-and-mortality/

上記の記事では、歩数と死亡リスクに関する研究結果を紹介しました。運動は健康にダイナミックに影響しているので、死亡リスクへの影響はとても大きいのですが、コロナ禍の中で、運動ってメンタルに本当に効くな~と言うことを実感された方も多いと思います

そこで、この記事では、どの程度運動がメンタルヘルスに影響を及ぼすのか、食事、睡眠、そして喫煙と比較をするという面白い研究があったので、紹介したいと思います(参考文献1)。

この研究はWorld Psychiatric Associationという雑誌で、私は知らない雑誌だったのですが、インパクトファクターが40近くある、精神医学領域で最も著名な雑誌になります。インパクトファクターは研究の分野が異なると比較はできないと言われますが、それでも40というのは恐ろしいなと思います。

今回の記事は、メンタルにどれくらい運動が効果的なの?と疑問に思っている方に是非読んで頂きたいですが、特に、普段運動をしていない方は、是非最後まで読んで頂いて、ちょっとでも意識を変えることができたらな~と思っています。

この記事を書いている私は、食品メーカーの企業研究員で、大学で公衆衛生、疫学を学びながら、会社では食品の機能性などの研究を行っています。精神医学については、素人ですが、論文の研究デザインなどについては、専門家レベルの知識を持っていると思いますので、論文の基本的理解はできているかなと思います。それでは早速研究の方を紹介したいと思います。

運動、睡眠、禁煙、食事の順番でうつ病のエビデンスは高い

参考文献1より作成

早速、論文の方を紹介したいと思いますが、この論文はメタアナリシスと言って、複数の研究結果を統合して1つの結論を導く、エビデンスレベルが最も高いと言われる研究です。

ただ、すでに報告されている論文には観察研究、RCT、メタアナリシスなど、様々な研究デザインが含まれており、これらをシンプルに統合することができなかったため、非常に複雑な解析を行っています。

上の図は、この論文の最後にまとめられている結果のまとめを元に作成したイラストになります。ここでは研究結果のエビデンスを5つに分けています。

このエビデンスレベルⅠ~Ⅴの詳細は、丸っと割愛しますが、ⅠからⅤになるごとにエビデンスレベルが上がっていきます。全てのエビデンスレベルで共通してメタアナリシスで効果があって、その中の違いというレベルなので、エビデンスレベルⅠだから低いという訳ではありません。

さて、それでは上の図の結果を見ていきたいと思いますが、まずはうつ病を見てみると、うつ病に対して、運動、食事、禁煙、そして睡眠と全ての項目で予防的な効果が報告されています

これは、まあ大体の方が納得される結果かなあと思うのですが、それだけうつ病の発症のメカニズムが複雑だということを示しているということも重要なメッセージだと思います

そして、さらに付け加えて、エビデンスレベルと、効果の大きさを表すオッズ比を示したデータを表すと、下記の通りになります。

  • 運動(エビデンスレベルⅤ);オッズ比 0.84
  • 睡眠(エビデンスレベルⅢ);オッズ比 0.52 (睡眠障害のオッズ比 1.92より計算)
  • 禁煙(エビデンスレベルⅡ);オッズ比 0.62 (喫煙のオッズ比 1.62より計算)
  • 食事(エビデンスレベルⅠ);オッズ比 0.77 (質の高い食事パターン)

オッズ比は小さいほどリスクを下げますので、効果の大きさだけ見ると、睡眠、禁煙、食事そして運動という順番でうつ病に対しては予防的な効果はありそうですが、上記のオッズ比はあくまでも引用したメタアナリシスの結果であり、エビデンスレベルでは運動、睡眠、禁煙、食事という順番のようです。

つまり、運動の効果はかなり確かなようですが、割とマイルドな効果とも言えるかもしれません

様々な精神疾患に効果がある点でも運動がメンタルに与える影響は大きい

次に、うつ病以外の精神疾患(不安、ADHD、双極性障害、精神異常)についても紹介をしたいと思います。ここで言う精神異常(Psycotic Disorders)とは、幻覚または妄想を伴う障害と定義されています。

さて、ここでも先ほどと同じように、エビデンスレベルとオッズ比で結果を記します。ADHDについては、文書中でも図の中でも運動による予防的な効果が示唆されていますが、実際のデータを引用することができなかったので記載を割愛します。

  • うつ病(エビデンスレベルⅤ);オッズ比 0.84
  • 不安障害(エビデンスレベルⅢ);オッズ比 0.75
  • 精神異常(エビデンスレベルⅢ);オッズ比 0.73
  • 双極性障害(エビデンスレベルⅠ);オッズ比 0.49

以上のように、運動の効果はうつ病だけでなく不安障害をはじめ、精神異常、双極性障害、ADHDなど、全ての精神疾患に予防的に働くことが期待されており、運動をすることが、メンタルにとって非常に良いということが良く分かります

運動って言ってもどのくらいするとよいの?という疑問に答えます

最後に、運動と言った時に、どのくらいの量、運動をすることが良いのかについても触れておきたいと思います。

結論から言うと、運動の強度や量(時間)についてはこの論文では言及されていません

ですので、あくまでも個人の見解として伝えておきますと、強度や量は小さくても良いと思います。さらには、どんな競技でも良いですし、よく動くような仕事でも運動していると考えていいんじゃないかと思っています。

もちろん、しっかりと体を鍛えることで自分に対して自信を持つことができると思うので、強度なども一つのファクターとして含まれていることは間違いないはずです。

ただ、皆様も実感したことがあると思いますが、体を動かしているときというのは、嫌なことなどを忘れていたりしませんか?ちょっとマインドフルネスのような面もあるかもしれませんが、家事や園芸をしているときでも、作業をしているときというのは、不安や怒り、悲しみを忘れて、取り組んでいる活動にカラダも、ココロも集中させていると思います。

このように、体を動かすことで、気持ちも自然と集中している状態になることが、第一にメンタルには効いているんではないかと思っています

また、テニスやサッカー、野球など、多くのスポーツは一緒に活動をする仲間が必要です。スポーツジムでもパーソナルトレーナーがいますね。こういった社会性もすごく大事で、誰かと一緒に活動をすることで、役割が与えられ、前向きな気持ちにつながったり、会話を通してメンタルケアにもつながっているのではないかなと思います。

つまり、死亡と運動の関連では運動の強度が重要なファクターだったかもしれませんが、メンタルと運動の関連については、体を動かすというだけでかなりポジティブに働いているんじゃないかな~とわたしは期待をしています。(付け加えると、死亡の関連でも軽くてもよいので運動をすることが大事です。)

ここについては今回紹介した論文に記載されている内容ではないので、言及するには他の文献などもしっかり読む必要があるかなと思いますが、また別の記事でまとめることができたらなと思います(あくまでも個人の見解で実際のエビデンスは違うかもしれないですね)。

まとめ

運動が死亡のリスクを下げるというのは先日、別記事で紹介しましたが(LINK)、メンタルにもかなり効くというのは、実感がある割にはエビデンスで紹介していなかったので、この記事にまとめました。

そして、ポイントとしてあげられたのは、

  • 身体活動はうつ病だけでなく、不安障害、ADHD、双極性障害、そして妄想・幻覚などの精神異常など精神疾患と呼ばれる症状に対して、万能な効果、かつ、しっかりとしたエビデンスが認められています。
  • しかし、その効果の大きさは喫煙、睡眠、そして食事などと比べるとマイルドかもしれません。
  • 運動の強度、時間などについてはこの論文では言及されていません。個人的見解としては、運動を実施していること自体が精神疾患の予防にとても大切だと考えています。

誤解が無いように、付け加えるとしたら、基本的に上記の効果は運動が予防的に働く、と言うことであって、治癒的効果とは異なります。総説論文なので、一つ一つの研究の詳細を確認するには元の論文まで確認する必要がありますが、病気になってしまった後は、個人の判断で運動をして治療しようと考えるのではなく、ちゃんと医師と相談して治療方針を決めることが大切です。

うつ病だと、自分で病院に通うことも辛かったり、自分自身の病気を受け入れること自体がとても大変なことではありますが、自分を客観的に見つめ、医師に相談しようという決断をすることだけでも、とても大きな一歩だと思います。

精神科の予約をしたことがある方は分かると思いますが、予約を取ることすら大変なほど、苦しんでいる方は沢山いらっしゃいます、実際に研究をしていても、すごく実感しますが、うつ病は花粉症、生活習慣病などの次に来るくらいに主要な疾患の一つなのです。どうか心配がある方は、個人で悩むのではなく、ちゃんと病院で治療をお願いいたします

さて、話を戻しますが、運動をすることで、辛いことを忘れて体を動かしていられること、カラダを鍛えることで自信を持つことができることなど、メンタル面でいいことだらけです

運動の記事では繰り返し主張しているのですが、運動が苦手という方は、まずは強度にこだわるのではなく、楽しく続けることを重視して行くのが圧倒的に大切だと思います。一人で続けるのが難しい場合には、スポーツサークルを探してみたり、ジムやスポーツクラブなどに入会するのも良いと思います。

ジムやスポーツクラブはお金もかかるし、続けられるか心配だな~という方もいると思いますが、基本的には、ビギナークラスであれば、楽しく続けるということを重視しているはずですし、無料体験などもほとんどのスクールやジムでありますので、是非一度足を運んでみてください。昔は運動が苦手だったなんて言う方も、大人になってからのスポーツというのは、びっくりするくらい楽しいと思うはずです。お金も、負担があるのは間違いありませんが、将来かかるであろう医療費を抑えるための投資だと思えば、私はコストパフォーマンスもとても高いと思います。

それでは。

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参考文献

  1. Joseph Firth et al., A meta-review of "lifestyle psychiatry": the role of exercise, smoking, diet and sleep in the prevention and treatment of mental disorders. World Psychiatry 2020 Oct;19(3):360-380. doi: 10.1002/wps.20773. LINK
  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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