健康,  腸内環境

【英国消化器病学会】過敏性腸症候群(IBS)の対応に関するガイドライン要約

はじめに

イギリスの消化器病学会から過敏性腸症候群(IBS)の治療に関するガイドラインが発表されました。

British Society of Gastroenterology guidelines on the management of irritable bowel syndrome.

わたしは腸内細菌に関する研究をしているにもかかわらず、正直なところ、過敏性腸症候群(IBS)についてはあまり良く分かりません。

腸内細菌の書籍には必ず触れられる病気ではありますが、情報が網羅されている本は少ないように思います。また、わたし自身が勉強不足で、あまり専門的な書籍も読んでいないため、漠然としたイメージしか得られなかったと言う感じです。

その様な訳で、今回の記事では、正しい情報発信のためにも、このガイドラインを紹介させていただきます。

Pon(ブロガー)
食品会社勤務。社会人博士課程の大学院生。腸内細菌や食品の機能性研究、公衆衛生などに興味があります。Twitterはこちら。気になった論文を共有したりしています。

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過敏性腸症候群(IBS)とは精神的ストレス、自律神経の乱れからくる腸症状の総称

過敏性腸症候群(IBS)は一般的な病気でストレスや自律神経の乱れからくる腸症状の総称を呼びます。

総称なので、様々な原因、様々な症状がありますが、National Institute for Health and Care Excellenceというガイドラインに示されている定義は、

少なくとも6ヶ月間、警告的な症状や兆候がなく、腸の習慣の変化を伴う腹痛や不快感を伴うもの

出典:National Institute for Health and Care Excellence

とされています。「警告的な症状や兆候がなく」というのは、重篤な症状の場合には、別の病気の可能性があるためでしょう。よく聞く特徴としては下記の内容が多いかと思います。

症状・下痢型
・便秘型
・混合型(下痢と便秘の両方)
原因メカニズムは脳と腸は神経がつながっているため、脳腸相関が関わっていると考えられます(詳細は不明)。これはストレス、疲れなどから自律神経や腸の動きに異常が生じるためと考えられます。

IBSという自覚がなくても、「緊張してお腹を下した」とか、「海外旅行に行ったら、全然便が出ない・・・」と言ったことは普通にあることですね。これが繰り返される場合にはIBSと言えるのかなと思います。(ちゃんとした診断は病院で!)

英国消化器病学会ガイドラインの概要

ガイドラインの要約を和訳したら下記の通り

以下、ガイドラインに記載されている要約の和訳となります。

【背景】 過敏性腸症候群(IBS)は臨床医が受診する最も一般的な胃腸疾患の一つです。2007年に英国消化器病学会がガイドラインを発表して以来、過敏性腸症候群の複雑な病態生理の理解が大幅に進みました。そして、腸と脳の相互作用の障害として再分類されました。さらに、IBSの診断、調査、管理に関して、新しいエビデンスが数多く発表されています。

【目的】 そこで患者管理のための実践的なフレームワークを臨床現場に提供するために、現在のエビデンスをレビューし、要約することを目的にしました。

【ガイドラインの特徴】 このガイドラインの強みは、推奨項目が、医学文献の包括的なエビデンスに基づいている点です。これらの文献は、IBSの治療における食事療法、薬物療法、心理療法の有効性を評価したメタアナリシスおよびネットワークメタアナリシスに使用されました。各推奨項目には、推奨の強さとエビデンスの質をまとめました。これらの評価は「Grading of Recommendation Assessment, Development and Evaluation」システムに基づいて行われました。

【まとめ】 このガイドラインでは、現在研究されている新しい治療法を紹介しています。また今後の研究の必要性が満たされていない分野にも焦点を当てています。

ガイドラインは食事療法、薬物療法、心理療法の管理方法を言及している

この要約をまとめると、ガイドラインに書いてあるポイントは、

  • 過敏性腸症候群(IBS)を腸と脳の相互作用の病気として考える
  • 治療方法は食事、薬物、心理療法がある
  • レビューは研究論文をもとにメタアナリシスを実施してまとめた
  • エビデンスには「推奨の強さ」と「エビデンスの質」の2つの指標がある

ということで、ガイドラインなどを読んだことがある方にとっては、お馴染みの方法でまとめられているみたいです。

この記事の注意事項ですが、ガイドラインは一般の方向けのものではなく、治療方針を考える際の指針ですので、医療関係者向けに作られています。

第一選択の治療法:運動、食事、薬について

ここからは、ガイドラインに記載の第一選択の治療方法をまとめます。ガイドライン記載の推奨項目と推奨度、エビデンスの質を書いています。(※あくまでもガイドラインの紹介です。治療の際には医師と相談を!)

  1. 適度な運動を推奨。(推奨度:強、エビデンス:弱)
  2. 食事指導をうけるべきです。(推奨度:強、エビデンス:弱)
  3. IgG抗体を用いた食物不耐性に基づく食事除去は推奨しない。(推奨度:強、エビデンス:中程度)
  4. 水溶性食物繊維は有効。不溶性食物繊維は症状を悪化させることがあるため避けるべきです。水溶性食物繊維は2~3 g程度からはじめ、徐々に増やしましょう。(推奨度:強、エビデンス:中程度)
  5. 発酵性の糖質(オリゴ糖、二糖類、単糖類)や糖アルコール類の摂取を減らすことは、第二選択の食事療法としては有効です。しかし、訓練を受けた専門家の指導の下で実施すべきです。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  6. グルテンフリーの食事は推奨しない。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  7. プロバイオティクスは有効ですが、特定の菌種、菌株を推奨しない。プロバイオティクスを試す場合には、最大12週間摂取をし、改善が無い場合には中止することが妥当。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  8. ロペラミド(下痢の頻度を減少させる薬)は下痢型の患者には有効です。腹痛、膨満感、吐き気、便秘などの副作用に注意して、慎重に投与量を考える。(推奨度:強、エビデンス:非常に低い)
  9. 抗けいれん薬は有効な可能性があります。一般的な副作用として口の渇き、視覚障害、めまいがあります。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  10. ペパーミントオイルは有効な可能性がある。一般的な副作用として胃食道逆流がある(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  11. ポリエチレングリコールは便秘型の患者には有効な可能性があります。一般的な副作用として腹痛があります。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)

という内容でした。運動、食事療法が大切なのは間違いないですね。ですが、全体的に「エビデンスレベルが非常に低い」が多く、「これが正解!!!」と言えるものが無いのは残念だな~と思いました

第二選択の治療法:医薬品は詳細不明ですが、全体的に高エビデンス

ここからの内容は、全て医薬品になりますが、わたしが知っている医薬品名がほとんどなかったこと、間違いがあってはいけない内容となりますので、原文の自動翻訳を添付します。英語での原文はこちらです。

  1. 腸脳神経調節薬として使用される三環系抗うつ薬は、IBSの全般的な症状や腹痛に対して有効な第二選択薬である。三環系抗うつ薬は、プライマリーケアまたはセカンダリーケアで開始することができるが、その使用の根拠については慎重な説明が必要であり、患者はその副作用プロファイルについてカウンセリングを受けるべきである。低用量(例:アミトリプチリン10mgを1日1回)から開始し、1日1回30〜50mgの最大量までゆっくりと増量すべきである。(推奨度:強、エビデンス:中程度)
  2. 腸脳神経調節薬として使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬は、IBSの全般的な症状に対して有効な第二選択薬となりうる。三環系抗うつ薬と同様に、これらの薬剤はプライマリーケアまたはセカンダリーケアで開始することができるが、その使用の根拠については慎重な説明が必要であり、患者はその副作用プロファイルについてカウンセリングを受けるべきである。(推奨度:弱、エビデンス:低)
  3. 混合オピオイド受容体薬であるエルクサドリンは、二次医療における下痢を伴うIBSの第二選択薬として効果的である。オッディ括約筋障害や胆嚢摘出術の既往のある患者、アルコール依存症、膵炎、重度の肝機能障害には禁忌であり、入手のしにくさから使用が制限される可能性がある。(推奨度:弱、エビデンス:中程度)
  4. 5-ヒドロキシトリプタミン3受容体拮抗薬は、二次医療において下痢を伴うIBSに対する有効な二次治療薬である。アロセトロンとラモセトロンは多くの国で入手できないため、オンダンセトロンを1日1回4mgから最大で1日3回8mgまで漸増投与することが妥当な代替手段である。便秘が最も一般的な副作用である。この薬剤群は、下痢を伴うIBSに対して最も効果的であると考えられる。(推奨度:弱、エビデンス:中~高)
  5. 非吸収性抗生物質であるリファキシミンは、腹痛に対する効果は限定的であるが、二次医療において下痢を伴うIBSに対して有効な二次治療薬である。この薬剤は米国では下痢を伴うIBSに認可されているが、多くの国ではこの適応症には使用できない。(推奨度:弱、エビデンス:中程度)
  6. グアニル酸シクラーゼCアゴニストであるリナクロチドは、二次医療において便秘を伴うIBSの二次治療に有効な薬剤である。下痢は一般的な副作用であるが、便秘を伴うIBSに使用可能な最も効果的な分泌促進薬であると考えられる。(推奨度:強、エビデンス:高)
  7. 塩化物チャネル活性化剤であるルビプロストンは、二次医療における便秘を伴うIBSの有効な第二選択薬である。この分泌促進薬は、他の薬に比べて下痢を起こしにくい。しかし、吐き気が頻繁に起こる副作用であることを患者に警告すべきである。(推奨度:強、エビデンス:中程度)
  8. 別のグアニル酸シクラーゼ-Cアゴニストであるプレカナチドは、二次医療における便秘を伴うIBSの第二選択薬として有効である。下痢は一般的な副作用であり、リナクロチドやテナパノールと同様に起こりうるものである。米国では便秘を伴うIBSに認可されていますが、多くの国ではこの適応症にはまだ使用できません。(推奨度:強、エビデンス:高)
  9. ナトリウム-水素交換阻害剤であるテナパノールは、二次医療において便秘を伴うIBSの二次治療薬として有効である。ここでも、下痢が頻繁に起こる副作用である。米国では便秘を伴うIBSに認可されているが、多くの国ではこの適応症にはまだ使用できない。(推奨度:強、エビデンス:高)
  10. 5-ヒドロキシトリプタミン4受容体アゴニストであるテガセロドは、二次医療において便秘を伴うIBSの二次治療に有効な薬剤であるが、米国以外では入手できない。下痢は一般的な副作用である。(推奨度:強い、エビデンス:中程度)

ざっと確認して感じたのは、エビデンスの質がほとんどが中程度~高でいい感じだなと思いました。やっぱり重篤な方は医師に相談し、適切な治療(医薬品など)を受けることが大事だということを思わされました。

心理学的療法はエビデンスは低いが推奨度は強い

続いて、心理学的療法です。個人的にはここは興味が強いのですが、ポイントをまとめると下記の通りとなります。

  1. 認知行動療法は有効な可能性があります。(推奨度:高、エビデンス:低)
  2. 催眠療法(腸管指向性催眠療法)も有効な可能性があります。(推奨度:高、エビデンス:低)
  3. 心理学的療法は12ヵ月の薬物治療で改善しない場合には検討すべき。アクセス可能であれば、患者の希望に合わせて、より早い段階で紹介していいです。(推奨度:高、エビデンス:低)

ということで、こちらもわたしには分かるような分からないような内容でしたが、原則、薬物治療が優先と言うことです。

もう一つのポイントは、「アクセス可能であれば」という前提で、推奨されるということです。催眠療法等について引用文献2に詳しく説明がありますが、このような心理学的療法が可能な施設は日本では少ないのではないかな?と思います。また、そもそもどれだけちゃんとした施術がされるんだろうか?という疑問は感じました。

重度または難治性のIBSの管理

最後に重篤な患者に対する推奨内容になります。

  1. 重度または難治性のIBSの症状は、診断自体を見直し、詳細な調査を検討すべきです。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  2. 重度または難治性のIBSは、総合的アプローチで管理すべきです。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)
  3. オピオイドの処方、不必要な手術、経済的利益や評判の良さを動機とした、証明されていない規制対象外の診断や治療は避けるべきです。(推奨度:強、エビデンス:非常に低い)
  4. セロトニン症候群のリスクに注意し、重篤な症状には、増強剤と呼ばれる腸・脳神経調節剤の併用を検討する。(推奨度:弱、エビデンス:非常に低い)

ここは、一般的に考えてそうだろうな~と言うことが書いてありました。セロトニン症候群はあまり詳しく分かりません。調べたところ下記のような説明がありました。

セロトニン症候群とは,通常は薬物に関連した,中枢神経系におけるセロトニン作動活性の亢進によって生じる,生命を脅かす可能性のある病態である。症状としては,精神状態の変化,高体温,自律神経および神経筋の活動亢進などがある。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。

MSDマニュアル webサイトより

薬物療法の副作用と考えられ、迅速に対応した場合には予後は良好なようです。

さいごに

ここまで読んで下さりありがとうございました。正直読みにくかったと思います。すみません~。

今回の記事は治療ガイドラインと言うことで、いつも以上に慎重に記事を書きました。間違いがあってはいけないと言うこともあり、結構な量、原文の和訳を掲載しました。

ガイドライン本文には、もっと細かいポイントが詳細に述べられていましたので、別の記事でまとめていければと思います。

また、何度も書きますが、

治療が必要な方はお医者さん行ってください!
このガイドラインを読んで、改めて思いましたが、自己流で完ぺきな治療は無理だよ!

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それでは。

参考文献

  1. Vasant, D. H., Paine, P. A., Black, C. J., Houghton, L. A., Everitt, H. A., Corsetti, M., Agrawal, A., Aziz, I., Farmer, A. D., Eugenicos, M. P., Moss-Morris, R., Yiannakou, Y., & Ford, A. C. (2021). British Society of Gastroenterology guidelines on the management of irritable bowel syndrome. Gut, gutjnl-2021-324598. Advance online publication. https://doi.org/10.1136/gutjnl-2021-324598
  2. 松原 慎 心身医学的治療 : 催眠療法・自律訓練法・認知行動療法:—機能性消化管疾患の心身医学的治療の臨床使用とその課題— LINK

食品会社勤務の企業研究員。公衆衛生の講座に在籍する、社会人博士課程の大学院生でもあります。食の機能性研究、腸内細菌の研究に軸を置いています。興味関心は公衆衛生、疫学。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Twitterやブログで発信しています。