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ロイテリ菌が自閉症モデルマウスの社会性を回復させる

2021-04-10

こんにちは。この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。最近は再び脳腸相関記事に力を入れておりますが、先日、高脂肪食を食べると腸内細菌が変わり、社会性が欠如するという記事を書きました(記事はこちら)。

この記事の中で、ロイテリ菌という乳酸菌が幸せホルモンと言われるオキシトシンを産生し、社会性を回復させたということも書きました。

先日の記事では食生活の変化によって腸内細菌が変化したマウスを用いたので、腸内細菌によるアプローチで回復するというのは、分かりやすかったと思います。

一方で、同じ研究チームから、遺伝子欠損による先天的な自閉症モデルマウスでも同じことが起こるのかを検討した論文があります。

先天性の自閉症なので、自閉症の原因は腸内細菌ではありません。この場合はどういう結果になるのでしょうか~?この記事では、この自閉症モデルマウスに対するロイテリ菌の働きを紹介したいと思います。

この記事のポイント

  • 自閉症スペクトラムの人は、下痢などの腸症状が4倍以上も多い
  • 自閉症モデルマウスにロイテリ菌を摂取させると社会性が回復する
  • ロイテリ菌の作用機序は迷走神経でオキシトシンを分泌する。

▶ Pon(ブロガー・企業研究員)
食品企業で働きながら、社会人大学院生として博士課程にも在学しています。腸内環境や公衆衛生に興味があります。Twitterはこちら。気になった論文の紹介などをしています。

自閉症の子供には腸症状が多くみられ、腸内細菌との関連が示唆されていた

自閉症スペクトラム症は社会性やこだわりが強くなる発達障害

はじめに、自閉症スペクトラム症について簡単に紹介します。本当に一般的に言われているレベルのことなので、多くの方がご存じかと思いますが、

  • 対人関係が苦手
  • 強いこだわりがあり、同じことを繰り返したりする
  • 20~50人に1人の割合で存在し、男性のほうが2~4倍多い

などの特徴を抱えた発達障害の一つです。

あまり治療等に関わる情報はここでは書かないのでちゃんとした専門家に相談して頂ければと思います。ただ、今回の記事を読むにあたって前提として、自閉症スペクトラム症は生まれつきのものです。

これだけお伝えしたくてこの章を書きました。

自閉症の子供で腸症状が4倍以上も増加する

参考文献1のデータを元に作成

では、具体的に自閉症スペクトラム症の腸内環境が異なっているのかを見る前に、自閉症スペクトラム症では腸内環境が悪い人が多いと言われますが、実際に腸症状がどの程度起こるのかを紹介したいと思います。

上の図はメタアナリシスと言って複数の論文の結果を統合して一つの結論を出す研究になります(参考文献1)。この結果を見ると全ての腸疾患で4.4倍も腸症状が出ています。これは正直言ってかなり大変だな~と思いました。

また、下記の資料(参考文献2)では腸内細菌の変化として、自閉症スペクトラム症でいくつかの特徴的な腸内細菌の変化がみられ、それによってディスバイオーシスが起こり、脳血管で炎症が起こることが示唆されています。

参考文献2より引用

しかし、自閉症スペクトラム症は前の章で紹介した通り、生まれつきのものです

腸内細菌は当然、生まれてからできるものなので、原因が必ず結果の前に起こるという原則を考えると、腸内環境が悪いことが原因で自閉症スペクトラム症が起こるわけではないと考えられます。

腸内細菌が原因で自閉症になるわけではありません。
これ大事ですね~。

高脂肪食を食べたマウスでは腸内細菌叢が変化し社会性の欠如につながる

さて、先日、上の記事で食習慣の変化によって腸内細菌が変化し、社会性が欠如すること。さらにこの社会性の欠如が腸内環境の改善によって回復することを紹介しました(論文は参考文献3です)。

また、この記事では特にロイテリ菌という乳酸菌の果たす役割が大きいことも紹介しました。

この研究はとても興味深い内容なのですが、実は食事誘発性の社会性欠如モデルマウスを用いているので、社会性欠如の原因が食事であり、食事によって変化した腸内細菌であることが完全に分かっています

つまり、この研究で使用された食事誘発性の社会性欠如モデルマウスは生まれつき社会性が欠如した自閉症スペクトラム症とはメカニズムが違っている可能性が高いのです。

そこで、今回の記事で紹介する論文では先天性の自閉症のモデルマウスでの試験を行うことにしました

参考高脂肪食を食べ続けると社会性が欠如するかもしれない

高脂肪食によって腸内細菌が変化すると、社会性が欠如するメカニズムを詳細に解析したマウスの試験を紹介します。この論文ではロイテリ菌という非常に興味深い腸内細菌が社会性に大きくかかわっていることも証明しました。

続きを見る

やっとメインの論文紹介か・・・

自閉症モデルマウスでも社会性の回復が見られるか確認した論文

自閉症モデルマウスでもロイテリ菌は社会性を回復させた

参考文献4より作成

この論文ではShank3Bという遺伝子の欠損マウスを試験に用いました。このShank3Bという遺伝子は幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンの受容体になります。

この研究ではこのオキシトシン受容体の欠損マウスを先天的な自閉症のモデルマウスとして研究を行っています。

細かい実験方法はこちらの記事と同じなので省略しますが、この研究では、この自閉症モデルマウスにロイテリ菌という乳酸菌を飲用水に混ぜて摂取させています。

すると、ロイテリ菌を摂取したマウスは社会性が通常のマウスと同じ程度まで回復したのです。また、別の試験では、BTBRマウスという別の自閉症スペクトラム症モデルマウスでも同様にロイテリ菌の接種によって社会性が回復しました

ロイテリ菌の作用機序はオキシトシン系を介して迷走神経に働く

参考文献4より改変引用

最後にこの研究で触れられていた社会性の回復につながったメカニズムについて紹介をしたいと思います。上の図は迷走神経で産生された幸せホルモンであるオキシトシンを染色した写真となっています。

緑色に染色されているのがオキシトシンで赤色に染色されているのが神経細胞(ニューロン)です。また右側の棒グラフのうちCのグラフがオキシトシンを産生したニューロンの数、Dのグラフがニューロンの数を表しています。

グラフからも明らかなように、ニューロンの総数に差はないのですが、Shank3B遺伝子が欠損したマウスでは明らかにオキシトシンのレベルが下がっているのです。

これらの研究結果から想像されることは、オキシトシンの産生が社会性の回復に関わっていること、そしてロイテリ菌によってそのオキシトシンレベルを回復させることができるかもしれないということです。

おもしろいですね~!

さいごに

ここまで読んで下さりありがとうございました。なかなか難しい論文だったかもしれませんが、簡単にまとめると、

この記事のポイント

  • 自閉症スペクトラム症は先天的な病気です。
  • ですので、腸内環境が悪いことが原因で自閉症スペクトラムになるということはありません。
  • でも、自閉症スペクトラム症の腸内環境を改善することで、社会性を回復できる可能性があります。

ただ、今回紹介した論文は、動物試験ですので、ヒトで証明されるのはまだ先の話だと思いますし、ヒトでは異なる結果になるかもしれません

でも、このような研究結果が自閉症スペクトラム症のメカニズム解明に繋がっていけばいいなあと思います。

また、余談ですが、このロイテリという腸内細菌は、割と簡単に購入したりすることができる非常になじみのある腸内細菌です。下記の記事で、ロイテリ菌を使用した機能性表示食品で、歯周病予防のエビデンスを紹介しています。興味があったら読んで下さい。

参考口腔脳フローラを改善する機能性表示食品”ロイテリ”を分かりやすく解説

機能性表示食品の中に口腔内フローラを改善するロイテリという商品をご存じですか?この記事では口腔内フローラを改善する機能性表示食品、ロイテリの届出資料から、ロイテリ菌という細菌にどのようなエビデンスが報告されているのかを紹介したいと思います。

続きを見る

発達障害がお腹の調子を悪くする理由

また、自閉症スペクトラム症の人がなぜ腸内環境が悪いのかについても、追加で紹介したいと思います。これは私の考えですが、自閉症の人はこだわりが強く、偏食傾向なども多いように思います

そのため食事も栄養バランスが偏ってしまい、腸内環境が悪くなってしまうのではないかなと思っています。先日報告されたCellの論文では、腸内細菌が自閉症を引き起こすのではなく、自閉症によって食生活が偏り、腸内細菌が変化したという因果の逆転だった可能性を報告しています。論文の、統計的な話までは解説できませんが、この結論はわたしも納得がいくものだと思います。(今回紹介しているマウスの研究とは矛盾しますが)

ですので、今回の論文の中ではロイテリ菌が良いのではないかと示唆されましたが、根本的な話としては、様々な食事をバランスよく摂取し、まずは腸内環境を改善することを心がけるのが大事じゃないかと思っています

この記事が少しでも参考になったら嬉しいです。
それでは。

参考文献

  1. McElhanon, B. O., McCracken, C., Karpen, S., & Sharp, W. G. (2014). Gastrointestinal symptoms in autism spectrum disorder: a meta-analysis. Pediatrics, 133(5), 872–883. https://doi.org/10.1542/peds.2013-3995
  2. IDDF2019-ABS-0321 Relationship between autism and gut microbiome: current status and update  https://gut.bmj.com/content/68/Suppl_1/A40.2 
  3. Buffington, S. A., Di Prisco, G. V., Auchtung, T. A., Ajami, N. J., Petrosino, J. F., & Costa-Mattioli, M. (2016). Microbial Reconstitution Reverses Maternal Diet-Induced Social and Synaptic Deficits in Offspring. Cell, 165(7), 1762–1775. https://doi.org/10.1016/j.cell.2016.06.001
  4. Sgritta, M., Dooling, S. W., Buffington, S. A., Momin, E. N., Francis, M. B., Britton, R. A., & Costa-Mattioli, M. (2019). Mechanisms Underlying Microbial-Mediated Changes in Social Behavior in Mouse Models of Autism Spectrum Disorder. Neuron, 101(2), 246–259.e6. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2018.11.018
  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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