はじめに
こんにちは。この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。今日の記事は「概日リズム」です。かなり一般的な内容も含むかもしれませんが、ここ最近、セカンドミールの記事とか、時間に関わる研究を紹介していたこともあって、この記事を書いています。
概日リズムは生物が持つ体内時計のリズムで、ざっと説明すると、
- だいたい1日周期のリズムです
- ぴったり1日ではないのは、周辺環境などで微調整するためです
- 概日リズムの研究は2017年にノーベル賞を受賞しています
ということになります。
この記事を書いているわたしは、食品会社で働いている企業研究員です。大学で疫学の勉強をしている社会人博士課程の学生でもあります。
概日リズムという言葉はだいたい一日のリズム
早速、概日リズムの説明に入りたいと思いますが、概日リズムというのは、概算(おおよそ)で1日のリズムという言葉の通り、生物が持っている、だいたい1日周期のリズムのことです。サーカディアンリズムとも言われますが、ラテン語で同じ意味を指す言葉です。
この概日リズムは全ての生物が持っていると言われていて、驚くことに微生物も持っているようです。
概日リズムのおおよそ1日という周期ですが、これはぴったり24時間ではなく、24時間よりも前後するようで、周囲の環境などによって微調整して1日というサイクルをまわしています。あえて不正確に設定していることで、環境が変化した場合でも1日のサイクルを正確に刻むことができるようになっているとも言えます。
つまり、微調整できる能力があるからこそ、生活リズムが崩れたり、時差ボケのようなことが起こっても、対応することができているということです。
ちなみに、このリズムが24時間よりも長い人は朝が苦手で、短い人は朝が得意になりやすいです。高齢になると概日リズムが短くなるみたいなので、高齢になると朝が得意というのもこの概日リズムが影響しているかもしれません。
ちなみに、どうやって調べるのか分かりませんが、私たち人間の概日リズムの平均は24時間10分くらいとのことです。
次にこの概日リズムの仕組みについて、簡単に解説したいと思います。
概日リズムをコントロールする遺伝子とタンパク質がある
まず、概日リズムはPER(Period)とTIM(Timeless)という2つの複合タンパク質とCLKというタンパク質が関わっています。
まずPERとTIMというタンパク質が夜の間にくっついて複合体を作るんですが、これが朝になると分解をはじめます。日中は複合体を作ったりすることはありません。これにはCLK(Clock)というタンパク質が関わっています。
具体的には、CLKはPERとTIMの合成をコントロールしているのですが、明るい時にはCLOCKはPERIODとTIMEがくっつかないように働きますが、PERIODとTIMEの合成タンパク質の量が一定量よりも少なくとその働きを止めます。
するとまた、PERとTIMが複合タンパク質を作り始めます。このようにお互いのタンパク質の量によって遺伝子のスイッチを入れたり、切ったりするようなことをフィードバック制御などと言いますが、概日リズムはフィードバック制御でシーソーのようにPER・TIMタンパク質の合成と分解、CLKタンパク質によるスイッチの切り替えを行い、見事な概日リズムが生まれていることが分かっています。
概日リズムを最初に調べたショウジョウバエの研究
今回の記事では論文の紹介がメインではありませんが、実際に概日リズムを発見したコノプカ博士とベンザ―博士の1971年の論文を紹介したいと思います(参考文献4)。
1971年ということで半世紀前の研究ですが、とても面白いです。この研究は12時間周期で飛んだり、寝たりすることが分かっているショウジョウバエに薬剤による突然変異を起こしたショウジョウバエを作りました。
そして、突然変異させたショウジョウバエをじっくりと観察すると、3匹ほど概日リズムが短くなったり、長くなったり、そして、全く寝たりしないショウジョウバエを見つけたのです。1匹はリズムが無くなり、ずーっと飛んでいるハエ(図のB)、飛んだり、寝たりする周期が短くなり概日リズムが約19時間になったハエ(図のC)、逆に周期が長くなり、概日リズムが約28時間になったハエ(図のD)の3匹でした。
この概日リズムが変化したショウジョウバエはいずれもおなじ染色体上で突然変異が起こっていたことが分かり、論文として発表されたのが、概日リズムの始まりの論文です。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございました。今回紹介した研究はとても有名な研究ですが、私も論文を見たのは初めてでしたが、概日リズムが短いと早起きになるというのが、ショウジョウバエの研究の図を見て、なんとなくしか理解できていなかったのが、よく理解できました。
論文を見るって大事ですね。最後にちょっとだけ概日リズムに関するノーベル賞の話をすると、
- ノーベル賞を受賞したのは概日リズムの遺伝子を同定し、メカニズムを解明した研究に送られています。この時、遺伝子の同定は競争がすごく激しかったそうです。
- 受賞したのは米国のジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュ、マイケル・ヤングの3氏です。
- 概日リズムを発見したコノプカ博士、ベンザ―博士は残念なことにノーベル賞受賞前に亡くなってしまい、受賞することができませんでした。生きていたなら、受賞者が変わっていた可能性もありますね。ちょっと可愛そうです。
私たちの1日がこんな風なサイクルで回っているんだなと思うと、すごいなと感心してしました。
参考文献
- Reddy, P.; Zehring, W. A.; Wheeler, D. A.; Pirrotta, V.; Hadfield, C.; Hall, J. C.; Rosbash, M. Cell 1984, 38, 701–710. LINK
- Zehring, W. A.; Wheeler, D. A.; Reddy, P.; Konopka, R. J.; Kyriacou, C. P.; Rosbash, M.; Hall, J. C. Cell 1984, 39, 369–376. LINK
- Bargiello, T.A., Jackson, F.R., and Young, M.W. (1984). Restoration of circadian behavioural rhythms by gene transfer in Drosophila. Nature 312 , 752–754 (1984). LINK
- Clock Mutants of Drosophila melanogaster. Ronald J. Konopka and Seymour Benzer. PNAS September 1, 1971 68 (9) 2112-2116 LINK