健康 腸内環境

妊娠期の腸内環境の変化と子供の腸内環境への影響

2020-07-20

こんにちは、この記事では妊娠期の腸内環境がどのように変わるのかを紹介したいと思います。

妊娠期ほど身体がダイナミックに変化する時期というのは、成人後にはほとんどないと言えます。ですので、腸内細菌が大きく変わるというのも腑に落ちる話だと思います。

ですが、具体的にどのように変化しているのかをしっかりと調べた論文はとても貴重な情報ですよね。今回の記事では、妊娠中、そして出産後の母と子供の腸内細菌を追跡した貴重な研究を紹介したいと思います。

妊娠期の腸内環境は大きく変わる

参考文献1より改変引用

まずこの研究では妊娠期からに妊娠後にわたって母親の腸内細菌の測定をしています。そして、出産後1ヵ月から子供の腸内細菌も測定を行っています。

まず妊娠期の腸内細菌ですが、上の図の中の左の図をみてください。この図は妊娠初期と妊娠末期、そして妊娠していない健康な成人の腸内細菌を測定してXY座標にプロットした図です(主座標分析と言います)。

ピンク色と黒色は一般の成人男女ですが、妊娠初期の腸内細菌は一般の成人男女と近い腸内細菌にありますが、妊娠末期の腸内細菌は少し違うのが分かりますよね。

やはり女性は妊娠を期に腸内細菌が変わり始め、妊娠末期には初期と大きく異なる腸内環境となっているようです。

子供の腸に妊娠末期の腸内細菌は定着しない

ところが、この妊娠末期の腸内細菌というのは、必ずしも好ましい腸内細菌とは言えないようです。特徴としては、体重増加に加えて炎症なども増やす可能性があるプロテオバクテリア門の腸内細菌が多く、炎症を静めると考えられるフィーカリバクテリウム門の腸内細菌が多いようです。

産まれた子供が一番最初に接触する細菌になる母の腸内細菌が炎症などを引き起こす可能性があるというのは、少し残念なことだと思いますが、驚くことに新生児の腸内細菌自体は妊娠初期と似ているそうです。

産まれたばかりの子供には、炎症などを起こしやすい腸内細菌は定着しにくいのかもしれませんね。これは凄いことだなと思います。

また、上の図の右の図は母親同士の腸内細菌あるいは子供同士の腸内細菌がどれだけ似ているかを評価したグラフですが、母親が妊娠末期になるに従い腸内細菌の個体差が大きくなっていくのを反映するように、産まれた子供も最初の腸内細菌は個体差が大きく、徐々に似たような構成に変わっていくようです。

妊娠末期の腸内細菌を移植したマウスは太りやすい!

参考文献1より改変引用

さて、この妊娠末期の腸内細菌ですが、妊娠初期と比べて炎症などを起こしやすいということを記載しましたが、それを証明したデータが上のグラフになります。

この研究は、同じ参考文献1の中の追加実験になりますがとても面白いので合わせて紹介をします。

腸内細菌の研究では似たようなことがよく行われるのですが、無菌のマウスに妊娠初期と妊娠末期の腸内細菌を移植し、マウスを使って腸内細菌の機能を評価するという実験です。

妊娠末期の腸内細菌を移植したマウスは太りやすくなりました。これは子供の保護や成長のために栄養を体内に蓄積しようとしているのを腸内細菌が助けていると考えていいのかなと思います。

また、このマウスでは興味深いことに太っただけでなく、炎症のマーカーや糖質の代謝も一貫して悪くなっているのです。右側の図の糞中のサイトカインと書いてあるのは炎症のマーカーになります。つまり、炎症のマーカーが大きな差ではありませんが一貫して妊娠末期に上がっているということです。また、右下の糖代謝についても妊娠末期の腸内細菌を移植したマウスで悪くなっています。

妊娠中の体の変化と腸内環境については、どちらが原因でどちらが結果なのか(因果関係)は分かりませんが、このような変化が必ずしも良いとは言い切れないというのは知っているとよいことかなあと思います。

まとめ

ここまで読んでくださりありがとうございました。妊娠期の腸内細菌の変化は興味深いですね。妊娠末期の腸内環境はあまりよくないけれど、新生児には受け継がらないというのは神秘的な感じがします。

ここ最近の記事では子供の腸内細菌の記事をまとめていましたが、母子健康において腸内細菌というのは一つ大切なポイントになるのではないかなあと感じます。

関連記事をまとめておきましたので、もし興味があって読んでくださったらとても嬉しいです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

参考文献

Koren O, Goodrich JK, Cullender TC, et al. Host remodeling of the gut microbiome and metabolic changes during pregnancy. Cell. 2012;150(3):470-480. doi:10.1016/j.cell.2012.07.008 LINK

  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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