健康

GLP-1ダイエットの効果と問題

2023-11-25

こんにちは。健康&栄養系ブロガーのPonです。

最近はダイエット関係の勉強を頑張っているのですが、GLP-1ダイエットというのが流行りに流行っていて、割と大きな議論を巻き起こしているので、これについて紹介をしたいと思います。

とは言っても、GLP-1ダイエットって本当に最近、急激に注目されるようになったし、食品会社で働いている者としては、若干テリトリー外にはなるので、情報が曖昧な点もあるとは思いますが、ご了承ください。

なお、この記事は全て僕の意見であり、僕が調べた内容をもとにしていますが、糖尿病専門医のぽぬんさん(@Ponu_DM)がスペースでお話しされていた内容とも重複しています。よろしければぽぬんさんのXなどもフォローしてください。

GLP-1ダイエットというのは糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬という2型糖尿病治療薬として開発された薬を減量目的で利用したダイエットです。医薬品ですが、当然、自費診療での利用ということになります。

GLP-1作動薬は糖尿病治療薬の中では近年、需要が伸びている薬ですが、肥満の治療薬としても米国では承認されており、注目されています。

GLP-1ダイエットについて簡単にまとめると下記の通りになります、

  • GLP-1ダイエットは、適切な管理の元で行う分には安全で効果の高い肥満治療法の一つである。
  • 一方で、太っていない人が美容目的で行うのは痩せすぎの人が増えてしまうリスクがあり、適切とは言えません。
  • また、GLP-1ダイエットの流行によって、糖尿病治療で必要としている方に薬が行き届かない問題を引き起こしています。

これらを踏まえると、医薬品を使ったダイエットをBMI25未満の健常者が行うことは断固として反対の立場ですが、GLP-1ダイエット自体は否定する者ではないと考えています。

【Pon】食品会社で働くブロガー。研究職として10年以上の経歴があり、主に機能性食品、腸内環境などを専門としていました。社会人大学院生として公衆衛生の講座で学位(PhD)を取得しています。

GLP-1とは何なのか

GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の治療に使われる薬です。

膵臓からインスリン分泌を促進し、血糖値をコントロールするGLP-1という物質があるのですが、GLP-1受容体作動薬はGLP-1の働きを模倣し、食事後の血糖スパイクを抑制します。

副作用には吐き気があることがありますが、基本的には安全で効果の高い治療薬として、糖尿病治療薬の中でも需要の大きい薬です。

近年は、GLP-1作動薬含まれる抗肥満効果が米国FDAで承認され、日本でも注目されるようになりました。次の章では、GLP-1作動薬の抗肥満効果について紹介します。

GLP-1作動薬の抗肥満のメカニズムについて

GLP-1作動薬の抗肥満効果のメカニズムはいくつか報告がありますが、一般的なメカニズムは食欲の低下です。

他のメカニズムとしてはGLP-1作動薬が脂肪の吸収を直接抑制するという報告もあるみたいです。ただ、そうは言っても食事の摂取量の方が減量には大きく影響しているので、脂肪の吸収は副次的なメカニズムかなと思います。

GLP-1作動薬の効果

では、実際にGLP-1作動薬はどの程度、体重を落とすのでしょうか?日本で販売されている代表的なGLP-1作動薬のリラグルチド、セマグルチドの2薬のデータを紹介したいと思います [1]。

引用元のデータは欧米の臨床研究が中心ですが、複数の論文を統合した研究(メタアナリシス)なので信頼性は高いと思います。

主な結果を見ると、

【体重変動】

リラグルチド:平均-4.1 kg (95%信頼区間-3.4〜-4.8)

セマグルチド:平均-10.5 kg (95%信頼区間-8.3〜-12.7)

【BMI変動】

リラグルチド:平均-1.6 kg/m2 (95%信頼区間-1.4〜-1.9)

セマグルチド:平均-4.1 kg/m2 (95%信頼区間-3.3〜-4.8)

となっていて、リラグルチド、セマグルチドともに非常にキレの良い結果です。ただ、上記のデータを見てもわかりますが、論文の結論の中でもセマグルチドが推奨されていました。

この結果を見た時には、あ〜こんなにキレがよく体重が下がるんだ〜とびっくりしました。これは、肥満症の治療薬として注目されるのもよく分かるな〜と感じます。

では次に副作用も見てみましょう。

GLP-1作動薬の副作用

基本的には、GLP-1作動薬の副作用としては胃腸症状があります。

これは、GLP-1作動薬の食欲を抑えるメカニズムとして胃での消化がゆっくりになるということもあり、胃がもたれるのでしょう。1番気にしなくてはいけない副作用となり、ひどい場合には吐き気などが起こるそうです。

ただし、有害事象で臨床試験を中止した人は試験参加者の0.2%程度でしたので、個人的には医師がしっかりと管理している状況のもとであれば安全な薬と考えて良いと思います。

メカニズムから考えると、この副作用がある人のほうが食欲が減少し、痩せるのかなと感じますが、セマグルチドとリラグルチドで副作用のリスクは違いがないようでした。

GLP-1ダイエットを考えている方に知ってほしいこと

ここまでにGLP-1作動薬の抗肥満作用と安全性について紹介しました。僕の意見としては、GLP-1作動薬はちゃんと抗肥満作用もあるし、適切な管理のもとであれば安全な医薬品だと思います。

では、どんどん使って良いのかというと決してそうではありません。一般的に言われている問題点としては大きく2つあります。

  • GLP-1ダイエットでGLP-1作動薬が使われているため、慢性的に薬が供給不足になっている
  • 肥満ではない人が美容目的でGLP-1ダイエットを行っている

ということです。自費負担での薬の使用自体は、個人の自由が原則とは言え、社会的にみると非常に大きな問題です。

まず、糖尿病患者への供給不足の点です。これは、かなり深刻な状況で、ニュースにもなっています[2]。

肥満症はメタボリックシンドロームの基本要因となっていて、脳卒中、心臓病の大きなリスク因子なので、僕としては必ずしも肥満治療と糖尿病治療では糖尿病治療の方を優先すべきとは思っていません。

事実、先日、GLP-1ダイエットを行うとその後、命に直結するような心血管イベントが減少するという論文も出ています[3]

一方で、糖尿病は慢性疾患ですので、患者も原則、長期間、治療を継続しているはずです。それが、突然、GLP-1ダイエットが流行って、薬が供給できなくなりました!となった時に治療方針の変更が必要になるなど、混乱を招くことは明らかです。

こういった状況を考えると、GLP-1ダイエットは保険適用が認められ、薬の供給体制を作ってから広げて行って欲しいなとは思います。

そして、一番の問題は、美容目的でのダイエットだと思っています。もちろんBMI30を超えている方がモテたくてダイエットをしているのは、美容目的だったとしても、合併症リスクがあるので、問題ないと思います。

ですが、BMI20前後の方がGLP-1ダイエットを行うのは医薬品の供給問題に加えて、健康問題も起こります。痩身はかなり重大な健康問題で、詳細なエビデンスはみたことがありませんが、若年層のサルコペニアなどはおもいっきり痩身が影響していると思いますし、認知症などのリスクも上がります。

これらの問題が一般の方になかなか伝わらないのは、価値観などの影響が多分にあると思いますが、もう少し認識を上げないとまずいと思っています。美容目的でGLP-1ダイエットを行っている医療機関は十分に痩身の健康問題などの正しい情報発信をしてほしいなあと思います。また、厚生労働省としても、明らかに不適切なGLP-1作動薬の処方をしている場合には、厳しい対応をとっても良いのではないかなあと思います。

最後に

GLP-1ダイエットについて、まとめましたがいかがでしたか?もしも、現在、肥満に悩んでいて痩せたいと思っている方がいらっしゃいましたら、まずは食事や運動などから取り組んでもらいたいなあと思います。

その上で、GLP-1ダイエットをしたいという場合には、この記事の内容も参考にしながら、医療機関でもしっかりと話を伺った上で慎重に検討していただきたいと思います。

この記事のポイントをもう一度おさらいしておくと、下記の通りになります。

  • GLP-1ダイエットは、適切な管理の元で行う分には安全で効果の高い肥満治療法の一つである。
  • 一方で、太っていない人が美容目的で行うのは痩せすぎの人が増えてしまうリスクがあり、適切とは言えません。
  • また、GLP-1ダイエットの流行によって、糖尿病治療で必要としている方に薬が行き届かない問題を引き起こしています。

最後までお読みくださりありがとうございました。また、他の記事 [4]でも、ダイエットについて丁寧に紹介をしています。特にまだダイエットについてほとんどわからないという方は、こちらの記事で詳しくまとめたので、よかったら読んでください。

それでは、ありがとうございました!

参考文献

  1. Liu et al. The Weight-loss Effect of GLP-1RAs Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists in Non-diabetic Individuals with Overweight or Obesity: A Systematic Review with Meta-Analysis and Trial Sequential Analysis of Randomized Controlled Trials., Am J Clin Nutr, 118, 614-26 (2023) https://ajcn.nutrition.org/article/S0002-9165(23)46846-3/fulltext
  2. 糖尿病の治療薬が不足、「ダイエット目的の不適切使用」か…医師や患者らの団体が厚労省に対策求める : 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/medical/20231107-OYT1T50008/
  3. Lincoff et al. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes. New Eng J Med, 10.1056/NEJMoa2307563. (2023) https://doi.org/10.1056/NEJMoa2307563
  4. 栄養系研究者の視点でダイエットを徹底解説した記事 (2023) https://ponlab.info/archives/1732
  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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