こんにちは。口腔内の健康は歯周病と虫歯のケアがとても大事ですが、どちらも口腔内細菌によるものです。歯周病は歯周病菌が凝集し、歯石となって歯ぐきに炎症を起こしたり、歯の根元となる歯周組織を溶かします。
初めは歯ぐきの腫れや出血が起こり、やがて進行すると歯が抜け落ちてしまう非常に怖い「病気」です!70代、80代になっても自分の歯でご飯を食べるためにも、若いときから、ちゃんと歯周病の対策をしてほしいです。
では、具体的に歯周病菌というのはどういったものがあるのでしょうか?また、健康な人と歯周病の人ではどのくらい口腔内の細菌組成が違うのでしょうか?この記事では歯周病と健康な人の口腔内細菌の違いを、欧州の研究から紹介したいと思います。
- 口腔内細菌叢は健康な人と歯周病の人では全く異なる
- 歯周病の人の特徴菌はFusobacterium nucleatum
- 健康な人の特徴菌はVeillonella dispar(40歳未満)、Streptococcus mitis(40歳以上)
- フソバクテリウムは初期~中等度の歯周病で多く、重症者では若干減少する
Pon(ブロガー・食品開発・疫学研究)
この記事を書いているPonは、食品メーカーの研究職で、大学で公衆衛生を学んでいます。食品の機能性研究を中心に、健康に関する情報をBlogやTwitterで発信しています。
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参考歯周病かもしれないと思ったら最初に読む記事|原因と家庭でできる対策
歯周病は30代以上の国民の8割以上が罹患しているとても怖い病気です。歯周病になると、出血や歯茎の腫れだけでなく、歯が抜け落ちてしまったり、様々な全身性の病気のリスクが高まると言われています。この記事では歯周病の特徴と対策について網羅的にまとめました。
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歯周病の定義
今回紹介するのはチェコで行われた約150人の口腔内細菌組成を調べた研究になります。そして、参加者を健康な歯のグループ、境界域のグループ、歯周病のグループに分けました。
この時の歯周病の診断基準は下記の基準でグループを分けています。
健康:歯周ポケットの検査時に出血が無く、全ての歯の歯周ポケットが3 mm未満
歯周病:5 mm以上の歯周ポケットが複数ある
境界:健康と歯周病の間(出血があったり、歯周ポケットが3~5 mm未満または、5 mm以上の歯周ポケットが1本)
この分類で分けた時に、健康な歯のグループは66人、歯周病のグループが45人でした。
あまり厳密に比較する必要はないと思いますが、日本での歯周病の診断基準としては、歯石がある場合を軽症、4 mm以上の歯周ポケットがある場合を中等度、6 mm以上の歯周ポケットがある場合を重症としているようです。
ちなみに、日本人は歯石がある場合で軽症とした場合には、成人の8割が歯周病となります。日本人の歯周病の実態などは下記の記事で紹介しています。
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細菌構成の違いに唖然としてしまう
歯周病と健康な人では全く細菌の構成が違う
まず、細菌の組成の違いを見てみましょう。下記のグラフは論文のデータを元に作成したグラフです。
左側に健常者(40歳未満)、右側に歯周病の人の細菌の割合(%)を示しています(健常者で多い細菌の順番に示しています)。
また、細菌の名前に色を塗っていますが、緑色は健常者(40歳未満)、赤色は歯周病に特徴的な細菌を塗っています。
この結果を見て、どのように思いますか?わたしは正直なところめちゃくちゃびっくりしました。わたしは、腸内細菌の論文を普段は読んでいるのですが、腸内細菌はここまではっきり差が出るイメージはないです。
一般的に、歯周病菌は偏性嫌気性菌のため、歯周ポケットのように酸素がない環境で増殖します。そのため同じ口腔内でも特定の細菌ばかりが増殖するのでしょう。
ちなみに、歯周病の原因菌として教科書的には下記のような細菌がありますが、データを見ると増加の割合がやっぱり尋常ではありませんでした。
- Fusobacterium nucleatum:2.4倍(22%)
- Porphyromonas ginigivalis:316倍(10%)
- Tannerella forsythia:160倍(6.0%)
- Treponema denticola:318倍(4.9%)
この結果を見たら、ぞっとしました!!歯周病菌の繁殖力すごすぎる!
口腔内の細菌タイプ(ストマトタイプ)がある
続いて、口腔内細菌をグループ分けしたデータがあったので、これも紹介したいと思います。これは、主座標分析といって、数百種類の細菌のデータをXとYの2変数にまとめる統計手法です。変数を減らすことで、1つの平面上にプロットすることができます。
正直なところ、上記の通り、あまりにも歯周病と健康な人の細菌に違いが大きいので、細菌のタイプをまとめる必要もないとは思いますが、タイプに分けることで視覚的に自分の口腔内細菌の状態が分かりやすくなります。
上記の図が主座標分析の結果となります。この主座標分析にとくに影響が大きかった細菌が、Veillonella dispar、Streptococcus mitis、Fusobacterium nucleatumの3つの細菌でした。(丸はわたしが図から目視で囲ったものです)
このように口腔内細菌をグループ分けしたものをストマトタイプ(口腔のタイプ、stomatotypes)と呼ぶそうですが、まだコンセンサスが取れているわけではないようです。ベイロネラタイプ、ストレプトコッカスタイプ、フソバクテリウムタイプというグループ名は論文にはありません。呼び名があった方が分かりやすいと思い勝手に記載しました。
また、この3つの細菌はそれぞれ、V. disparは健康な人(40歳未満)、S. mitisは健康な人(40歳以上)、F. nucleatumは歯周病の人に特徴的な細菌でした。
40歳以上の健康な人の細菌は歯周病のグループとも40歳未満とも違うグループになるんですね。加齢とともに歯周病は増えていくので、歯周病と健康な40歳未満の間に集まると思っていたので、これはとても興味深かったです。
歯周病菌の代表的なフソバクテリウムは重症者では少ない
最後にとてもびっくりしたデータを紹介します。
フソバクテリウムという歯周病の人の最も特徴的な細菌は歯周病の人よりも、境界域の人で多かったのです。
F. nucleatum [%] | |
健康な人 | 5% |
歯周病境界域 | 31% |
歯周病 | 23% |
フソバクテリウム自体は歯周病菌として良く知られているのですが、実はフソバクテリウム自体は直接歯周病を進行させているわけではないそうです。フソバクテリウムと共生する他の歯周病菌のほうが歯周病を進行させているようです。
どうもフソバクテリウムは歯ぐきなどに付着し、バイオフィルムのような膜を形成するようで、これが他の歯周病菌の増加を促しているようです。
ちなみにこのフソバクテリウムは腸内細菌でも、名のある悪者で、大腸がんに関連する腸内細菌としてもっとも有名です。大腸がんと腸内細菌についてまとめた記事で紹介していますので、興味があったら読んで下さい。
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参考大腸がんと腸内細菌の関係:腸内細菌検査で、初期のがんを推定
腸内細菌の検査で初期の大腸がんを推定する機械学習のモデルを作成した論文を紹介します。この研究が社会実装されれば、早期の大腸がんを小さな負担で見つけることができ、網のインデックスなどのように実用化も期待できます。夢がある研究ですね。
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個人での口腔内フローラの測定について
論文の紹介は終わりになりますが、口腔内細菌が非常に興味深かったので、個人で測定できないかを調べましたので、紹介をします。
結論から言うと、まだまだ測定費用も高いし、測定できる期間が少ないようです。
便から遺伝子を抽出して測定するよりも、だ液から抽出する方がよっぽど簡単そうですが、腸内細菌は約1万円程度まで価格が下がってきていますが、口腔内細菌の測定には2万円ほどします。
(株)ワールドフュージョンという会社で個人でも受託分析を依頼できるようでした。測定方法はだ液を試験管に採取し、送付するだけのようです。測定結果が細菌の割合と信号機(危険を赤、注意を黄色、良好を緑)で示してくれるので、分かりやすそうです。
興味があったら測定してみるのも良いのではないかと思います。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございます。この記事のポイントは、
- 口腔内細菌叢は健康な人と歯周病の人では全く異なる
- 歯周病の人の特徴菌はFusobacterium nucleatum
- 健康な人の特徴菌はVeillonella dispar(40歳未満)、Streptococcus mitis(40歳以上)
- フソバクテリウムは初期~中等度の歯周病で多く、重症者では若干減少する
という感じでした。非常におもしろい内容で、ますます興味がわいてきています。まだまだ勉強中の分野の話なので、間違い等ございましたら教えていただけると助かります。
それにしても、歯周病は恐ろしいなと思いました。一度、歯周病が進行すると口腔内細菌を健常な状態に戻すことはかなり大変なんだろうなと言うことを改めて感じました。
歯周病にならないためにも、ブラッシングをはじめ、日ごろの口腔ケアをしっかり行いたいなと思いました。
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参考歯周病かもしれないと思ったら最初に読む記事|原因と家庭でできる対策
歯周病は30代以上の国民の8割以上が罹患しているとても怖い病気です。歯周病になると、出血や歯茎の腫れだけでなく、歯が抜け落ちてしまったり、様々な全身性の病気のリスクが高まると言われています。この記事では歯周病の特徴と対策について網羅的にまとめました。
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