健康

肥満による概日リズムの障害には炎症マーカーによるフィードバックが関わる

はじめに

太っていると人は生活のリズムがわるいって聞いたんだけど、本当?

良く知っていますね!そうなんです、実は太っている人は、概日リズムに障害が起きると言われているんです。

へ~!!本当なんだ~?ちょっと詳しく教えてください!

こんにちは。この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。肥満と体内時計つまり概日リズムって何となく関連がありそうだな~っていうのは感じると思います。

ここで紹介する論文では、ヒトの培養細胞を使ったデータがメインですが、肥満と概日リズムのメカニズムを明らかにしています。

どうも、肥満によって炎症が活性化すると、概日リズムが弱まるようです。

それでは、本文を紹介したいと思います!

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Pon(ブロガー)
社会人博士課程の大学院生。腸内細菌や食品の機能性研究、公衆衛生などに興味があります。Twitterはこちら。気になった論文を共有したりしています。

2017年ノーベル賞受賞:概日リズムってなに?

概日リズムは言葉の通り、おおよそ(概)、1日(日)のリズムのことを言います。そのまんまです。そして、この概日リズムはおおよそという言葉の通り、ちょっとだけ24時間とずれているので、それを調節する機能が備わっています。

ずれてしまった概日リズムを調節するメカニズムがフィードバック制御という方法で行われます。簡単に言うと、一つの遺伝子が発現すると、もう一方が抑制されるというメカニズムです。ちょっと複雑に感じるかもしれませんが、このようなメカニズムで概日リズムを作っているため、海外旅行での時差ボケ、シフトワーカーの夜勤などの後でも、ちゃんと睡眠リズムが元に戻ります。

下記の記事で詳しく紹介させていただいたので、よかったらこちらの記事を見ていただけたらなと思います。

肥満による炎症がフィードバック制御を起こし概日リズムが変わる

参考文献より改変引用

ここからメインの論文の解説をしていきたいと思います。はじめに肥満になると血管の炎症マーカーが増加することは良く知られています。上の左図では、青色の健常で炎症マーカーが低く、赤色の肥満で炎症マーカーで高いですね。

一方で、PER2やCLOCKなど代表的な時計遺伝子が肥満の細胞では低下していました。また一番右の図をみると肥満と健常の脂肪細胞で、時計遺伝子(Per2)の位相がズレているのも分かると思います。

炎症が起こるとフィードバック制御で時計遺伝子の発現が抑制

参考文献より改変引用

ここまでのデータで、時計遺伝子と肥満は炎症マーカーを介して関連がある可能性が示されました。そこで、更に詳しくこのメカニズムを確認した結果、次のことが分かりました。

炎症マーカーの一つであるNFkB遺伝子が発現すると、時計遺伝子の発現が抑制される。

このような関係をフィードバック制御といって、さきほども触れましたが、時計遺伝子の発現自体がCLOCK(クロック)とPER(ピリオド)・TIM(タイム)というタンパク質のフィードバック制御によって24時間の周期を作っています(くわしくはこちらの記事)。

これらの時計遺伝子の発現に炎症マーカーが抑制的に働くことで概日リズムの障害につながったということになりますね。上の左図をみていただくと、炎症マーカーであるp65の遺伝子発現が肥満細胞では高く、逆に時計遺伝子BMAL1の発現が正常細胞で高いです。これは、炎症によってフィードバック制御が起こり、BMAL1遺伝子の発現が弱くなったと言えます。

さらに、炎症マーカーであるNFkBの発現を抑制した細胞(サイレンシング)を用いて、これらのメカニズムを確認したデータもありました。上の右図になりますが、NFkBの発現を抑制することで、肥満細胞でも時計遺伝子の発現が抑制されませんでした。

さいごに:炎症は疾患から時計遺伝子まで影響が大きい

ここまで読んで頂きありがとうございました。この研究では、培養細胞のデータが中心になってはいますが、一部でマウスのデータも含まれています。培養細胞は健常および肥満の人からとってきた脂肪細胞を培養して使っています。

今回の結果では炎症がキーポイントとしてあげられていました。このことは、糖尿病などのように血管の炎症が起きやすい人では同様の傾向が考えられるのかなと思いました。炎症が体全体に与える影響の大きさは、さまざま報告されており、認知症につながる可能性(こちらの記事参照)があります。また、糖尿病が重症化し、動脈硬化を起こしやすいのも血管の炎症が関連していると考えられます(こちらの記事参照)。コロナ関連で聞く、サイトカインストームも血管の炎症ですね。

炎症を予防することの大事さは、多くの方が認識していると思います。今回の論文は、概日リズムなのでこのような疾病とは異なりますが、炎症一つとっても、意外なところでつながっているんだなーとおどろきました

この記事が参考になったら嬉しいです。
それでは

参考文献

Maury, E., Navez, B., & Brichard, S. M. (2021). Circadian clock dysfunction in human omental fat links obesity to metabolic inflammation. Nature communications, 12(1), 2388. https://doi.org/10.1038/s41467-021-22571-9

  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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