健康,  腸内環境

認知症のリスクを腸内細菌で推定した研究

はじめに

こんにちは、この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。認知症は増え続けている病気の一つですが、その一方で認知症になるなら死んだほうがいい!と思っている人が多い、一番なりたくない病気とも言われています。

今は、少しずつ症状をコントロールできるようになり、以前と比べて、認知症に対する偏見は減ってきているとは思いますが、それでも、認知症の予防というのはとても関心がある方が多いのではないかなと思います。

そんな認知症に関する研究で興味深い中国の研究があります。腸内細菌を測定することで認知症の早期発見をすることができるかもしれないという論文です(参考文献1)。この論文は、脳と腸のつながりを示す研究(脳腸相関)の中でも、ヒトで行われた研究で、とても興味深いなと思いましたので、紹介したいと思います。

この記事のポイント

  • 腸内細菌の測定を行うことで早期認知症の推定が可能かもしれません
  • 認知症の進行と共にFirmicutes門の減少が認められました
  • バランスの良い食事、そして食物繊維をしっかりとりましょう
【Pon(食品会社研究員/博士課程在学/ブロガー)】
この記事を書いているわたしは、食品会社で働いている企業研究員です。博士課程の社会人大学院生でもあり、病気の原因を調べる疫学研究を学んでいます。詳しいプロフィールはこちらを参照ください。よかったらTwitterのフォローもお願いします(@Pon_yurublog)。

認知症と言えば一番なりたくない病気だけど長寿の証

認知症と言えば、もう現代病の一つと言っても言い過ぎではないほどですよね。昔、講演で聞いた話ですが、認知症は一番なりたくない病気で常に1位になるそうです。高齢者は認知症になるのを本当に怖がっていて、認知症になって、家族に迷惑をかけるくらいなら早死にしたいなんて言う人も大勢いらっしゃると言うことでした。

ですが、その一方で、認知症というのはガンや脳卒中、心筋梗塞などにならずに長生きした人が発症する最後の関門でもあり、認知症になるということは、ある意味、現代医学では健康で長生きをしたからこその病気と言えるのかもしれません。

この講演を聞いたのは、10年以上も前ですので、研究も進んでいると思いますし、治療も大きく変わったと思います。詳しい治療などは私は分かりませんが、先ほど述べたような極端な偏見は無くなり、むしろどのように向き合うのか?どのように予防するのかということに考えはシフトしているのかもしれません。

そして、特に認知症に対して特効薬と言えるものがない現状では、どのように予防していくか?と言うことが重要ではないかと思います。

認知症は、長生きした人にとっての最後の関門と先に表現しましたが、糖尿病などの生活習慣病との関連も報告されています。また、やせ型の体格の方に特に多いことが報告されおり(参考文献2)、食生活や運動習慣との関連性が示唆されています。食事では、以前にマウスの研究ではありますが、認知症とβグルカンという水溶性の食物繊維との関係を紹介しました(記事はこちら)。

腸内細菌から、かなり正確に認知症を推定したモデル

参考文献1より改変引用

早速ですが、この論文の結論であるモデルの推定精度、つまり、どのくらい正確に腸内細菌のデータを使って、認知症のリスクを推定できるかを視覚的に図示したグラフを紹介したいと思います。

上のグラフはROC曲線と言って、機械学習などの推定モデルを作成した時の、その推定精度を視覚的に表すのに用いるグラフです。細かい説明は省きますが、フラフの中に書かれているAUCという値を気にする人が多いと思います。

AUCの値は高ければ高いほど推定の精度が高く、最大が1です。最低は0ですが、適当に答えた場合のAUCが0.5になるので、実質0.5~1.0の範囲を取ります。

そして、この研究で腸内細菌を使って認知症の推定を行った結果は下記の通りでした。

主要な20属の腸内細菌を使用Enterobacteriaceae科の細菌を使用
①健常者から認知症を推定0.9400.698
②軽症者から認知症を推定0.9250.688
③健常者から軽症者を推定0.8900.460

次節以降に説明をしますが、一般的にこういったモデルを作成するときに使われることが多い属レベルの腸内細菌から存在量が多い上位20属を使用して作成したモデルと、認知症との関連がキレイに出ていたEnterobacteriaceae科の腸内細菌のみをモデルに組み入れた場合の2パターンで、①健常者から認知症、②軽症者から認知症、そして③健常者から軽症者を推定するという3つのモデルを作成しています。

つまり、2×3で6パターンの結果が出ていますが、まず言えるのは、軽症者からであれ、健常者からであれ、認知症を推定する方が精度が高く、そして、Enterobacteriaceae科よりも主要な20属を推定に使った方が精度が高いようです。

私が驚いたのは、健常者から軽症者になる人を推定するモデルもAUC=0.89とかなり高い結果が出ていたことです。ハイリスクの人を推定できるということもとても重要ですが、この結果を見ると、軽症の段階の変化に対しても腸内細菌を測定することで推定することができ、早期発見などにもつながることが示唆されている点です。

これは非常に有用だなと思いました。

余談ですが、AUCがどのくらいだと精度が高いという明確な基準はありませんが、私の感覚としては、腸内細菌でモデルを作るときであれば、0.70以上であればモデルとしては合格ラインで望ましくは0.8以上、0.9以上ならば素晴らしいという印象です。おそらく分野によっても異なると思います。

続いて、次の節ではどんな腸内試合菌が具体的に違っていたのかを紹介したいと思います。

認知症に特徴的な腸内細菌はどんなもの?

参考文献1より改変引用

細かい試験結果を紹介する前に、全体としてまず、認知症の進行に伴い、一貫して多様性の低下が見られました。この結果は一般的にも言われている結果と一致し、ディスバイオーシスが認知症につながるという仮説とも一致していました。

さらに、上のグラフでは門レベルと目レベルで特徴的な腸内細菌を紹介しています。全体的な印象では、認知症の進行とともに門レベルではFirmicutes門が減少し、軽症者ではBacteroidetes門が増加し、認知症の人ではProteobacteria門が増加します。

  • Firmicutes門は認知症の進行とともに一貫した減少
  • Bacteroidetes門は認知症の軽症者で特徴的
  • Proteobacteria門は認知症の人で特徴的

と特徴が見られるのは興味深いです。

ただ、この門レベルの分類というのは、相当広い分類になり、門レベルで腸内細菌を説明しようとするとおそらくミスリードになってしまい、批判の対象にもなってしまうので細かい言及は避けておきます。

簡単に説明をすると、Firmicutes門は良い腸内細菌、悪い腸内細菌に関わらず一般的な腸内細菌の多くが分類され、Proteobacteria門、Bacteroidetes門も同様です。

ただし、Proteobacteria門は大腸菌、サルモネラ、ビブリオ、ヘリコバクターなど多種多様な病原体が含まれている、主としてリポ多糖(LPS)から成る外膜を持ち、グラム陰性である。鞭毛によって動き回るものが多い(Wikipedia参照)などの説明もあり、あまり増加が好ましいグループではありません。

Bacteroidetes門の特徴はバクテロイデス属、プレボテラ属のように腸内細菌の中で最もメジャーな細菌を含んでいることと、主に糖質や食物繊維をエサにするという点が特徴的です。

そして目レベルで軽症者、認知症になることで一貫して増加がみられたEnterobacteriaceae科はProteobacteria門に分類される細菌です。Enteroというのは腸を意味していて昔から腸内に存在していることが知られていましたが、割合としてはさほど大きくはありません。

Proteobacteria門で述べたことと重なりますが、Enterobacteriaceae科の特徴は大腸菌や赤痢菌、サルモネラなど、ヒトや動物の腸内に生息したり(=腸内細菌の一種である)、腸管感染症の原因になるものが多い(Wikipedia参照)ということで、これらの細菌が増殖することで認知症のリスクが高くなるというのは十分に考えられます。

特にリポ多糖(LPS)は海馬に炎症を起こし、認知症を引き起こすことがマウスの試験でも報告されているので、認知症との関連はありそうだなと思いました(下記の記事参照)。

食事や生活習慣ではどんなことと関連がありそう?

最後にこの論文の結果を見て、どんなことに普段から気をつけるべきなんだろうかと言うことについて考察をしたいと思います。

とは言っても、この論文で食生活について言及している点はほとんどなく、あくまでも論文の結果から私の考えになります。わたしが気になったのは下記の2点です。

・多様性が低いと認知症のリスクが上がるので、様々な食材をバランスよく摂取することが大事
・初期の認知症は糖尿病との関連や、糖質への食事の偏りが気になる

1つめのポイント(多様性)は、試験結果からも明確に出ているので、あまり異論はないかなと思います。2つ目のポイント(糖質)については、そこまでクリアに結果が見られるわけではありませんが、一般的に言われている糖尿病が認知症のリスクファクターであるという点に加え、Bacteroidetes門が軽症者に多く、統計的な差は見られないのですが、糖質に偏った食生活の人に多いプレボテラという腸内細菌が多いというデータからもそのリスクを感じました。

個人的には、糖質オフには反対ですが、全粒穀物などのように、できるだけ食物繊維が多く含まれる食材を意識することでこういったリスクを下げることができるのかなと思いますので、参考にしていただけたらと思います。

まとめ

ここまで読んで下さりありがとうございました。この論文は脳腸相関を説明する一つの論文として興味深く、ヒトでの研究という点でも良かったと思います。その一方で、ヒトの試験ではメカニズムまで説明しきれない点も沢山あり、今後、こういった研究でたてられた仮説は動物試験で再度確認していくことも大事なんだろうなと思います。

そうは言っても、この論文の結果として上げられた多様性の低下もEnterobacteriaceaeの増加も認知症との関連は妥当な結果だと思いますし、糖尿病との関連を感じさせる結果が出ている点も参考になるかなと思いました。

それでは。

参考文献

  1. Liu P, Wu L, Peng G, Han Y, Tang R, Ge J, Zhang L, Jia L, Yue S, Zhou K, Li L, Luo B, Wang B. Altered microbiomes distinguish Alzheimer’s disease from amnestic mild cognitive impairment and health in a Chinese cohort. Brain Behav Immun. 2019 Aug;80:633-643. LINK
  2. Yokomichi H, Kondo K, Nagamine Y, Yamagata Z, Kondo N. Dementia risk by combinations of metabolic diseases and body mass index: Japan Gerontological Evaluation Study Cohort Study. J Diabetes Investig. 2020;11(1):206-215. LINK

食品会社勤務の企業研究員。公衆衛生の講座に在籍する、社会人博士課程の大学院生でもあります。食の機能性研究、腸内細菌の研究に軸を置いています。興味関心は公衆衛生、疫学。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Twitterやブログで発信しています。