はじめに
新型コロナウィルスの影響が続く中ですが、だんだんと経済活動も戻りつつあります。そのような中で、最近、PCR検査の陰性証明というものを目にするようになりました。
PCR検査は100%当たっているわけではなく、一定数、間違った結果が出てきます。承知の方も多いと思いますが、今のPCR検査は同じ確率で罹患していた場合には陰性と出る可能性が高いです。間違えて陽性という結果を出すこと(偽陽性)を避けるために意図的にこのようにしています。
本当は新型コロナに罹患していても、陽性と診断されるのは約7~8割と言われています。これがPCRを網羅的に行うことに対する反対派だったり、PCR検査を陰性証明に活用することの反対派の基本的な根拠です。
それに対して、私なりに解説をしたく、この記事を書くことにしました。
この記事のポイント(細かい説明が不要なら、ポイントだけ読んで下さい!)
- 新型コロナのPCR陰性は陰性証明に使ってよいと私は考えます
- 理由は、今の有病率であれば偽陰性が非常に少ないからです
この記事で書いている内容は、診断検査の知識があると理解がスムーズです。オススメの関連記事1にまとめました。興味があれば読んで下さい。
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Pon(ブロガー)
この記事を書いている私は、食品会社の企業研究員です。大学で病気の原因を研究する疫学を学んでいる大学院生でもあり、一応今回のような診断に関しても学んでいます。くわしいプロフィールはこちらをご覧ください。
PCR検査には偽陽性と偽陰性っていうものがあるんだよ!
最初にPCR検査について、説明をしたいと思います。偽陽性や偽陰性などの言葉は聞いたことがあると思います。まずは、この偽陽性、偽陰性について説明したいと思います。上の図には真陽性、真陰性という言葉も出てきますが、これらは検査結果でも実際にも陽性、陰性だった人になります(詳細は飛ばします)。
偽陰性とは本当は陽性なのに陰性の結果が出た人
偽陰性は本当は陽性なのに陰性の結果が出た人です。こういう人は意図せずにウィルスのスプレッダーになってしまう可能性がある迷惑な人です(言い方問題あったらすみません)。ところがこの偽陰性は本当は新型コロナに感染している人のうちの2~3割くらい存在すると言われています。結構多いと思いませんか?
つまり、陽性とは言っても7~8割しか当てられないのです。PCRで陰性でも、偽陰性の可能性があるので気をつけるようにという注意喚起はここから来ます。
偽陽性とは本当は陰性なのに陽性の結果が出た人
一方で、偽陽性というのは本当は陰性なのに陽性という結果が出たかわいそうな人です。PCR検査をして、一番不利益を受ける可能性が高いのはこの偽陽性の人です。ですので、今のPCR検査はこの偽陽性をできるだけ少なくするように設定しています(1%くらいにしていると言われています)。
検査の基準値を変えることでこのようなことができます。簡単に言うと、疑わしい人はだいたい陰性にしていれば、偽陽性を減らすことはできます。ですが、その分だけ偽陰性が増えます。偽陽性、偽陰性はコインの表と裏のような関係なのです。
偽陰性、偽陽性の計算方法
あんまり、ややこしい話はしたくありませんが、これだけは数式で説明します。
本当は陽性 | 本当は陰性 | |
検査で陽性 | 真陽性 | 偽陽性 |
検査で陰性 | 偽陰性 | 真陰性 |
- 偽陽性率=偽陽性÷(偽陽性+真陰性)×100
- 偽陰性率=偽陰性÷(真陽性+偽陰性)×100
という計算式で求められます。ポイントは割っている分母が「本当は陰性の合計(偽陽性+真陰性)」、「本当は陽性の合計(真陽性+偽陰性)」と言うことです。
では、次にリアルワールドでどのくらい偽陽性、偽陰性が出ているのかを、10,000人のモデル集団で計算したいと思います。
偽陽性、偽陰性で大事なのは新型コロナの有病率!
上の図が10,000人の集団で、実際には10人(0.1%)の感染者がいると想定したモデルです。無症状の人でも0.1~数%の新型コロナウィルスの感染者がいると言うことは、もう十分に理解されていると思います。
見ていただくと納得だと思いますが、大問題なのが、実は偽陰性よりも偽陽性です。偽陽性は1%くらいしかなく、2~30%の偽陰性と比べて圧倒的に少ないとは言っても、そもそも陰性の人が中心の集団なのです。ですので上の図をみればわかるのですが、悲しいことに、10,000人のPCRの結果は、
- 本当は感染している10人のうち、2人くらいは見逃してしまいます。
- そして、100人くらいは本当は陰性なのに、陽性の結果が出てしまいます。
無症状の人に対して無作為にPCRを行うと、実際の感染者の10倍くらいの人で陽性となり、医療機関を圧迫するというのが、恐ろしいほど分かる結果だと思います。
では最初にお話しした問題の偽陰性はどうかというと、検査を行った10,000人のうち、たったの2人くらいなのです。
先ほども触れましたが、ここでポイントになるのは感染者の割合(有病率)です。偽陽性率、偽陰性率はPCR検査の精度の話であって、有病率によって値が変わるものではありません。
一方でPCRで陽性と判定されて、実際に陽性となる割合(陽性的中率)は感染者の割合によって変動します。
今回のように陰性証明に使う目的で無症状の人が検査を受ける場合には、実際の有病率は低いと考えられます。偽陰性が多いとは言いますが、実際は、陽性的中率が低く、陰性的中率は高いという結果になります。
PCR検査を陰性証明につかうのは基本的にOK
ここまでの解説でだいたい理解できたと思いますが、上のモデルはあくまでも前提として有病率を0.1%とした場合です。この有病率が高い集団でPCRを行うことができれば、偽陽性の絶対数が少なくなり、効率のよい検査ができます。
ちなみに日本が最初に症状がある人だけにPCR検査を行っていたのは、スクリーニングをかけることで、この偽陽性の人による医療機関の圧迫をおさえることが目的と考えられます。
話を最初に戻します。無症状の人がPCR検査を行って陰性が出た場合には、信じていいでしょうか?それとも偽陰性もあるので、陰性の証明に使うのは間違っているでしょうか?
私の考えは、陰性の証明に使っても問題ないという考えです。それは上のモデルであれば、0.02%しか偽陰性は出ないからです。
もちろん、それでも、100%正しいということはあり得ません。反対する人は一定数いると思います。さらに、実際の感染者の割合や検査の精度が変われば結果も変わります。そこは皆様の考え方次第です。
ただ、PCR検査を陰性証明に使う方というのは、感染症に対する意識が高い人だと思いますし、科学的にも、決して間違ったことをしているわけではないのかなと私は考えます。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございました。ということで、今回はPCR検査について紹介をさせていただきました。どんな検査でも100%と言うことはあり得ません。ですので、PCR検査を陰性の証明に使うというよりは、一つの指標とするくらいが良いのだとは思いますが、この記事がそのようなときの参考になったら嬉しいです。
また、あくまでもこの記事は有病率が0.1%、偽陰性が20%、偽陽性が1%という計算で行っています。検査の精度やそもそもの有病率が正しいかは分かりませんので、ご承知おきください。
それでは。(2021/5/2更新)