こんにちは、この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。この記事では、腸内環境の多様性と関連する食習慣、生活習慣などをまとめて、ランキングにした3000人規模の米国の研究を紹介したいと思います。多様性指数は、腸内環境を決める最も大きなポイントの一つとも考えられ、非常に関心が高い項目だと思います。
この記事のポイント
- 多様性指数は高いほど、腸内環境が良いと考えられます。
- 多様性指数に関連が高い項目は、一般的に健康と考えられる状態や習慣との相関が認められました。
- たとえば、運動は多様性を高め、疾病や好ましくない腸症状は多様性を下げました。
- 食事習慣では炭水化物が多様性を下げ、魚、野菜などが多様性を高めました。
この記事を書いている私は、食品メーカーで5年以上腸内細菌の研究をしています。疫学を学んでいる大学院生でもあります。
腸内環境の状態を反映する多様性指数ってなに?
論文の紹介に入る前に、まず、多様性指数について簡単に紹介したいと思います。上のイラストは別の記事(LINK)で紹介した多様性指数を説明したイラストです。多様性指数はいくつか計算方法があるのですが、腸内細菌の集団としての特徴を示す数値です。
一般的には、多様性指数が高いほど良いと言われていますが、多様性指数は、
・菌の種類が多いほど多様性が高い
・菌の均一なほど多様性が高い
というのがざっくりとした計算方法です。ですので、上のイラストで言うと、左のような時が最も多様性が高く、真ん中のように均一だけど、2種類しかいない場合や、右のように3種類いるけれど、1つの腸内細菌が極端に多いと言った場合には多様性指数は低くなります。
一般的に、多様性は腸の健康を示す一番の指標になりますが、どんな食生活や生活習慣が多様性に関わっているのかは、あまり明確な答えがありません。
理由として考えられるのは、「多様性が高い」というのが特定の腸内細菌を指しているわけではないため、特定の食べ物ばかりを食べていると、逆に特定の腸内細菌ばかり増加して、多様性が下がったりするのです。例えば、ヨーグルトをたくさん食べて、ビフィズス菌は増えたけれども、多様性は下がったみたいなことがあるのです。
つまり、多様性を上げるための確かな答えは、食物繊維を中心に、バランスよく、色々なものを食べることが良いということは確かだと思いますが、明確なエビデンスは少ないです。
今回紹介する論文では、どんな生活習慣や食習慣が多様性に関わっているかを網羅的に調べて紹介しているので、私たちの実生活にとても参考になる論文です。それでは、論文の紹介に入りたいと思います。
多様性指数に関連がある要因を調査した研究
試験の概要
こちらの図が今回紹介する論文のメインの結果の一つです。左の図の点線から上が多様性指数と負の関連があった要因、下が正の関連があった要因を棒グラフで表しています。棒の色は血液パラメーター、身体測定、生活および食習慣、身体活動、腸症状、その他で色分けをしています。140の項目のうち、統計的に意味がある関連があったものだけをグラフにしています。
上に行くほど多様性を下げる要因であり、下に行くほど多様性を上げる要因となっていますが、その中で特徴的だなあと思ったものを、右側に書き出しました。事項以降で具体的な中身を紹介したいと思います。
身体測定値
多様性を下げる要因 | 多様性を上げる要因 |
BMI、体重、血糖、血圧、LDL-コレステロール | HDL-コレステロール、身長 |
身長というのは良く分かりませんが、一般的に健康な人ほど多様性指数が高いということがこの項目から明確に分かると思います。生活習慣病関連因子はほとんどすべてが多様性指数と関連がありそうです。一般的に言われていることではありましたが、思っていた以上にキレイに関連性が見られていて、とても興味深いなと思いました。
このデータをみれば納得だと思いますが、多様性が低いと本当にいいことがないです。一応、この研究は関連性を見ていて、因果は示せていないので、多様性が低いと生活習慣病になりやすいのか、生活習慣病になると多様性が下がりやすいのか、その両方があるのかは不明です。
食生活
多様性を下げる要因 | 多様性を上げる要因 |
炭水化物(ポテト、米、パスタ)、アイスクリーム、加糖飲料 | 生野菜、魚、カフェイン飲料、その他野菜、アルコール、果物 |
続いて一番関連がありそうな食事になります。多様性を高める食材として、生野菜が一番高かったです。また、魚介類については、血液パラメーターでDHAなど、魚介類をたくさん摂取していると増加する血液パラメーターが正の関連要因として出ていました。また、下げる要因としては白い炭水化物が出てきています。炭水化物は絶対量が多いので、摂取量が増加すると、特定の腸内細菌に偏ってしまうかもしれないなと思いました。意外だったのは、カフェイン飲料やアルコールが多様性を上げる要因に含まれていたことでした。
一方で、最初に少し記載しましたが、この中にヨーグルトなど、腸内環境と関連が強いと考えられている発酵食品が入っていませんでした。これは、やっぱりビフィズス菌のように極端に増えて多様性を下げる場合もあるため、バラつきの原因になったのかもしれないと思いました。
身体活動
多様性を下げる要因 | 多様性を上げる要因 |
座位時間 | 強度の高い運動の継続時間強度の高い運動の頻度歩行や自転車 |
正直なところ、身体活動については、私の想像よりも腸内環境に関連が強いなあと感じました。ですが、健康な腸と運動に関連があるというのは、分かりやすいですね。
その他
下痢、便秘などの悪い腸症状やおう吐、吐き気などの症状も多様性を下げていました。また、ちょっと面白いなと思ったのは、子供の数が多いほど、多様性を上げるという点でした。
細かくデータを上げていくと、きりがないので、もし興味があったら、是非論文を見て欲しいなと思いますが、逆に、多様性と関連がなかった項目で意外だったのは、喫煙でした。ここで関連が出なかったのは、何か交絡等で埋もれてしまったのか、それとも真に関連がないのか、気になりました。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございました。腸内細菌の多様性は、研究者にとっては非常に重要なポイントですが、良く分からないな~と言うことも正直あります。
ですが、この論文で、最終的な表現型と多様性指数の関連を網羅的に見ることができたのは、私たちの普段の生活にとても役に立ちそうだなあと思いました。
今回の記事で、このように多様性と関連する要因をたくさん紹介することができ、多様性がいかに大事かと言うことは実感できたのではないかなと思います。多様性が高いことでどのようなメカニズムで良いことが起こるのかは分かりませんが、様々な機能を持った腸内細菌がいることでいざストレスにさらされたときに、より柔軟に対応ができるというのが一応私の理解になります。
この記事が何かの参考になれば幸いです。それでは。
参考文献
Ohad Manor et al. Health and disease markers correlate with gut microbiome composition across thousands of people.,Nature Communications volume 11, Article number: 5206 (2020) LINK