腸内細菌と健康に関する研究は、有名なものでは大腸がん、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群などの腸の病気だけでなく、躁うつや生活習慣病など様々な報告があります。しかし、その一方で腸内細菌自体が民族や食文化などによって大きく異なることもあり、どんな腸内細菌が特に大事なのかと言った結論は一貫した報告が意外と少ないという難点があります。
今回紹介する論文は、40本以上の研究をまとめたレビュー論文です。メタアナリシスは行っていないようですが、非常に重要な論文だと思います。
結果が気になる方は是非読んでみてください。
この記事のポイント
- 健康な人に多く、2型糖尿病の人に少ない腸内細菌はBifidobacterium、Bacteroides、Faecalibacterium、Akkermansia、そしてRoseburiaの5属でした。
- 一方で2型糖尿病の人に多く、健康な人に少ない腸内細菌はRuminococcus、Fusobacterium、そしてBlautiaの3属でした。
- 糖尿病と関連している腸内細菌が持つ機能は、炎症や糖・インスリンの恒常性、短鎖脂肪酸などの代謝産物と関連がありました。
2型糖尿病と腸内細菌の関連をまとめたレビュー論文
今回紹介する論文は2型糖尿病と腸内細菌の関連をまとめたシステマティックレビューです。。
もう少し、丁寧に説明すると、似たような研究をしていても、必ずしも結果は同じではありません。そのようなときに、重要な論文を集めて、1つの結論を出すような研究をシステマティックレビューと言います。本来ならば、統計的にデータを統合するメタアナリシスという方法が望ましいですが、研究方法などが揃っていないとメタアナリシスまではできないので、あくまでも今回の研究はレビュー論文です。
で、このレビューでは、42本の論文を参考に書いているということで、かなり大作になっております。
糖尿病と関係が報告された腸内細菌
それでは、早速結果を紹介したいと思います。まず、上の図ですが、糖尿病の人に多い腸内細菌を赤、少ない腸内細菌を青で示しています。また、まる~く、トーナメント表のような図がありますが、これはクラスター解析と言って、腸内細菌の遺伝子が似ているものを順番に並べています。
Bifidobacterium、Bacteroides、Faecalibacterium、Akkermansia、そしてRoseburiaの5属の腸内細菌が多ければ多いほど健康な人が多く、糖尿病が少ないことが分かりました。
さらに、Ruminococcus、Fusobacterium、そしてBlautiaの3属の腸内細菌が多ければ多いほど糖尿病が多く、健康な人が少ないことが分かりました。
こういうデータを見ると、この腸内細菌は良い、この腸内細菌は悪いと結論付けてしまいがちですが、糖尿病と腸内細菌の関係は見ることができますが、どっちが原因で、どっちが結果なのかはこの研究だけでは分からないです。
変化があったのはどんな腸内細菌?
今回の腸内細菌の中で、変化があったものについて、説明をしたいと思います。ここでは、調べた内容というよりは、私の頭の中に入っている知識で紹介したいと思いますので、先ほど出てきた8属、全ての腸内細菌は説明できません。
正直なところ、私が抱いているざっとしたイメージなので、正しいかどうかは分かりません。ただ、私でもイメージできるような腸内細菌がたくさん出てきていたので、結果自体は最もらしい気もしています。
健康な人に多い腸内細菌
Bifidobacterium(ビフィズス菌)
言わずと知れた有用な腸内細菌です。食物繊維やデンプンを分解して、酪酸という短鎖脂肪酸を産生します。
Bacteroides(バクテロイデス)
平均値では、腸内細菌の中で最も相対存在比が多いのは、欧米や中国などではこのバクテロイデスとなります。日本人でも、平均値では、おそらくこの腸内細菌が一番多いと思います。
Akkermansia(アカマンシア)
読み方はアッカーマンシアとか色々あります。この腸内細菌は免疫と腸内細菌に関する記事(LINK)に出てきた、ムチン層を食べる腸内細菌です。免疫にとって非常に重要な粘膜(ムチン層)に多く存在し、免疫機能を助ける働きをすると言われています。ただし、先日紹介したように、食物繊維が足りないと食物繊維の代わりに、ムチン層を食べてしまい、逆に感染症を引き起こす原因にもなります。
糖尿病の人に多い腸内細菌
Ruminococcus(ルミノコッカス)
エンテロタイプについて書いた記事(LINK)に出てきた腸内細菌のタイプを決定する主要な腸内細菌の一つです。ルミノコッカスグループの腸内細菌は、炭水化物を分解して短鎖脂肪酸を産生する、有用な細菌というイメージがあるのですが、逆にいうと、炭水化物に偏った食生活をしていることでルミノコッカスが増え、糖尿病になっているとも考えられます。糖尿病の人に多いと言われると、悪い腸内細菌の印象がありますが、本当はどうなんだろう?と論文を読んで気になりました。
Blautia(ブラウティア)
この腸内細菌は日本人と、海外11ヶ国を比較した研究(ブログのリンク:LINK)で日本人に最も多かった腸内細菌の一つです。この腸内細菌もルミノコッカスと同様、私は必ずしも悪い腸内細菌とは考えていませんが、どうなんでしょう?と思いました。
Fusobacterium(フソバクテリウム)
最後にこの腸内細菌は歯周病を引き起こす細菌でもあり、この腸内細菌が多い場合には、口腔内細菌が歯周ポケットなどから侵入している可能性があるそうです。で、この腸内細菌は結構悪いエビデンスがたくさんあります。いくつかのがんとの関連などもありますので、気をつけたほうが良い細菌です。
腸内細菌が2型糖尿病と関連するメカニズム
では、次にどんなメカニズムで2型糖尿病に効いていたのかを推定するために作成したネットワーク解析についても紹介したいと思います(上の図)。
このネットワーク解析を見ると、Bacteroides、Roseburia、Akkermansia、Ruminococcus、そしてFusobacteriumなどの腸内細菌は炎症との関連がありそうだなと言うことが分かります。
また、Bifidobacteriumは糖・インスリンの恒常性などとの関連が認められています。
最後にFaecalibacteriumは代謝産物を媒体して腸の浸透性や代謝などへ影響していたと考えられます。
正直なところ、私もここまで多様なメカニズムで腸内細菌と2型糖尿病が関連していると思っていなかったので、かなり面白い情報だなと思いました。
まとめ
ここまで読んでくださりありがとうございました。個人的にはかなり読みごたえがある論文でした。ここまで発表されているなんて、すごいなと思いながら記事をまとめました。
途中で書きましたが、あくまでもこの記事は関連を報告しているだけで、因果関係、つまり、糖尿病と腸内細菌のどちらが原因でどちらが結果だったのかについては分からないので注意してください。
最終的には、ちゃんとした臨床研究で確かめるべきなのでしょうが、短期試験でも良いのか、長期試験になるのか、長期の場合にはどのくらい長期なのか?など、研究方法やその解釈をめぐっては、悩ましい点が多いというのも難しいなと思います。
参考文献
Gurung M, Li Z, You H, et al. Role of gut microbiota in type 2 diabetes pathophysiology. EBioMedicine. 2020;51:102590. doi:10.1016/j.ebiom.2019.11.051 LINK