こんにちは。この記事に興味を持ってくださり、ありがとうございます。先日、セカンドミール効果について記事を書きました(LINK)。セカンドミール効果というのは、GI値が低い食品、つまり食後の糖の吸収を穏やかにする食品を食べると、その食事だけでなく、次の食事でも糖の吸収を穏やかにする効果が持続するんだよ~という話でした。
そして、記事の中で、セカンドミール効果が出るメカニズムは、
- 腸内細菌の代謝産物
- 満腹感の持続
という2つのメカニズムが考えられますよ~ということを書きました。ダイナミックに影響を与えている効果は満腹感の持続だと思いますが、腸内細菌も少なからず影響があるんです。
ただ、腸内細菌は人によって、細菌の種類や量が違いますよね!ですので、このセカンドミール効果も腸内細菌のタイプによって変わるかもしれないのです!
この記事では腸内細菌によってセカンドミール効果が変わるよ~ということを証明した論文を紹介したいと思います。
この記事のポイント
- 腸内細菌のタイプでプレボテラが多い人はセカンドミール効果が出やすいかもしれません。
- このメカニズムは、プレボテラが産生するコハク酸が、肝臓で糖を作るのを抑制するからです。
この記事を書いているわたしは、食品企業で働いている企業研究員です。食品の機能性などが業務の中心で、社会人博士課程の大学院生でもあります。腸内環境の研究はもう5年以上続けているかな~というところです。
腸内細菌の代謝物コハク酸によって糖の吸収がおだやかになる
セカンドミール効果が起こる仕組みには、満腹感の持続や腸内細菌が産生する物質(代謝産物)の影響があると言われています。この中で特に影響が大きいのは、満腹感の持続だと私は考えています。お腹がいっぱいのときには、栄養の吸収は減るよね~ということです。
一方で、腸内細菌は糖尿病をはじめとした生活習慣病との関連が報告されていて、その大きい所が、腸内細菌そのものではなく、腸内細菌が産生する物質(代謝産物)の影響と言われています。
ですが、どんな物質を産生するのか、というのはやっぱり細菌によって異なるので、どんな腸内細菌がいるのかによってセカンドミール効果は変わってくるんです。
今回紹介する論文では、大麦の全粒粉でつくったパンを食べた時のセカンドミール効果の話なので、他の食材でも同じことが言えるか分かりませんが、プレボテラという腸内細菌が存在することで、セカンドミール効果がより得られるということが分かりました(参考文献1)。ちなみにこの大麦は日本でも海外でもたくさんセカンドミール効果の研究が行われている、注目の素材の一つです。
さて、先ほど紹介したプレボテラという腸内細菌は糖質や食物繊維をたくさん食べている人に多い腸内細菌ということが知られているので、大麦に含まれる糖質や食物繊維を分解したりする機能が優れているということは何となく想像できますが、この研究では、なんと、プレボテラが大麦を分解してコハク酸という物質を産生していることまで調べています。(パチパチ)
このコハク酸ですが、同じ研究チームの別の研究にはなりますが、腸内で産生されると、糖を産生する臓器である肝臓に作用して、糖の産生を抑制するというメカニズムで効くということまで分かっています(参考文献2)。しっかりと裏を取っているところがすばらしいですね。
では、つぎに具体的にこの全粒大麦パンでセカンドミール効果が出た試験、そして腸内細菌によってその変化が起こった研究を紹介したいと思います。
全体の解析でセカンドミール効果は出ている!でも出ない人もいる!
それでは、さっそく全体の結果を紹介したいと思います(参考文献3)。上の図がその結果になりますが、この試験はセカンドミール効果とは言っても、少し試験デザインは応用されています。
多くのセカンドミール効果の試験は1回GI値が低い食事を食べることで、その次の食事での糖の吸収を穏やかにするというものですが、この試験では3日間続けて食べることで、よりしっかりと差が出るように工夫をしています。セカンドミール効果を比較するのは3日続けて試験食品(白パンか全粒パン)を食べた翌朝の朝食になります。
評価しているのは、小麦粉でできた普通のパン(白パン)と全粒の大麦を使用したパン(全粒パン)です。当然ですが、全粒大麦パンはGI値が低い食品ですので、仮説では全粒パンのほうでセカンドミール効果がでることが期待されます。
その結果、キレがいい結果とは言い切れないのですが、統計的にもしっかりと全粒パンを食べることでセカンドミール効果が出ています。ただ、この論文だけでは分からないんですが、実際には、効果があった人と、効果が無かった人がいたようで、39名の参加者のうち、10名ほどは効果が無い人がいたようです。
次に、この効果が無かった10名の腸内細菌に着目して、そのメカニズムを説明した論文を紹介したいと思います。
セカンドミール効果が出た人と出なかった人の腸内細菌が違った!
ここからはセカンドミール効果があった人のことをレスポンダー、無かった人をノンレスポンダーと呼びます。そして、上の図がその結果になります。
参考文献1ではこのレスポンダーとノンレスポンダーの腸内細菌を比較していて、試験開始前と全粒パンを食べた後の2回のプレボテラ属という腸内細菌の3種の結果を示しています。一番メジャーなプレボテラ種はプレボテラ・コプリ種という種で、この研究はスウェーデン人を対象にしていますが、日本人も多く保有している腸内細菌です。
上の図を見ると明らかなように、レスポンダーの人はノンレスポンダーに比べてプレボテラの量が高いことが分かります。かなりはっきりと差が出ているので、プレボテラが何かしらセカンドミール効果に影響しているというのは強く考えられますね。
代謝産物まで調べると、プレボテラのグループは食物繊維や糖質を分解して、コハク酸という物質を産生することが知られていて、この研究のレスポンダーでもコハク酸が多く産生されていました。
先にも書きましたが、実際に血糖値を下げていた要因はこのコハク酸だったことも別の研究から証明されていて、このメカニズムはとてもきれいに証明されています。
【超大事!!】プレボテラがいることが健康とは限らない
私は、この研究を糖尿病の方が読むと大きな誤解を与えると思っていて、一つ注意喚起をしたいと思っています。実は、今回の試験は参加者が全員健康な人です。そしてレスポンダーはあくまでもセカンドミール効果が出た人と言うことであって、今回の研究ではレスポンダーもノンレスポンダーも健康な人です。
では、プレボテラが多い人は少ない人よりも健康なのでしょうか?これは非常に重要なクエスチョンです!
そして、このクエスチョンには明確な答えが示されていません。プレボテラは先にも書きましたが食物繊維や糖質を多く食べる食習慣がある人に多く存在します。人によっては食物繊維の影響で健康ですし、人によっては糖質に偏った食生活によって、糖尿病などの生活習慣病を持っている可能性があります。
つまり、この研究では「元々健康」という前提があるから、プレボテラを持っていることは、セカンドミール効果がでていいね!となるのですが、プレボテラを持っていることが必ずしも良いかは分かりません!!ここまでキレイに研究結果が出ているのに、こんなことを言ってしまうのはちょっと残念ですが、とても大切なポイントだと思うので、この記事を読んだ方は覚えておくといいと思います。
まとめ
ここまで読んで下さりありがとうございました。今回の記事は、セカンドミール効果は腸内細菌の影響もあるので、どんな腸内細菌叢(そう)を持っているかがセカンドミール効果に影響があるよね!という話でした。
ですが、わたしがもっと訴えたいのは、今回の試験でプレボテラが多い人がレスポンダーだったからと言って、プレボテラがいいんだ!というのは短絡的かもしれないということです。
ではどうすればいいのか?その答えがこの記事にあるわけではないのですが、いずれは、そこまで明確に説明できる研究が見つかるといいなと思います。
参考文献
- Petia Kovatcheva-Datchary et al. Dietary Fiber-Induced Improvement in Glucose Metabolism Is Associated with Increased Abundance of Prevotella. Cell Metab. 2015 Dec 1;22(6):971-82. LINK
- De Vadder F et al. Microbiota-Produced Succinate Improves Glucose Homeostasis via Intestinal Gluconeogenesis. Cell Metab. 2016 Jul 12;24(1):151-7. LINK
- Anne C. Nilsson et al. Increased gut hormones and insulin sensitivity index following a 3-d intervention with a barley kernel-based product: a randomised cross-over study in healthy middle-aged subjects. Br J Nutr. 2015 Sep 114(628):899-907 LINK