健康 腸内環境

腸内細菌ベイロネラはマラソン選手のパフォーマンス向上に貢献する

2020-09-07

こんにちは、腸内細菌の記事を継続して紹介していますが、これまで紹介してきた記事は、潰瘍性大腸炎(LINK)やクロストリジウム腸炎(LINK)など、どちらかというと病気などに関する情報に偏っていました。

ですが、腸内細菌は私たちの生活習慣や食習慣の影響を受けて、それをサポートするようなこともあります。例えば日本人の腸内細菌は海藻の食物繊維を分解する機能を持つことが報告されていますが、これは腸内細菌が私たちの消化をサポートしている良い例の一つだと思います。

そこで、今回紹介するのは、米国の研究でマラソン選手に特徴的に備わっていた腸内細菌に関する研究結果です。先日書いた下記の記事でも少し紹介させていただきましたが、この記事ではより詳しく紹介させていただきます。

https://ponlab.info/2020/09/03/%e9%88%b4%e6%9c%a8%e5%95%93%e5%a4%aa%e6%b0%8f%e3%81%8c%e4%bb%a3%e8%a1%a8%e3%81%aeaub%e3%81%8c%e4%ba%94%e8%bc%aa%e9%81%b8%e6%89%8b%e3%81%8b%e3%82%89%e6%96%b0%e7%a8%ae%e3%81%ae%e3%83%93%e3%83%95/

この記事のポイント

  • マラソン選手が保有する特徴的なベイロネラという腸内細菌が見つかりました。
  • ベイロネラは乳酸をプロピオン酸に代謝することができます。
  • マウスの腸へプロピオン酸注入すると走行時間が長くなり、ベイロネラがマラソン選手のパフォーマンス向上に役に立っていることが分かりました。

この記事を書いている私は、食品メーカーで働いていますが、腸内細菌の研究を5年以上続けています。また、大学で公衆衛生などを学んでいる博士課程の社会人大学院生です。

マラソン選手に多く存在していた腸内細菌はベイロネラ!

参考文献から改変引用

それでは、早速研究の紹介をしたいと思います。この研究は2015年のボストンマラソンに参加したマラソン選手の腸内細菌を測定し、普段ランニングなどの習慣がない人と腸内細菌を比較したところから始まる研究です。

その結果、ベイロネラという腸内細菌が、マラソン選手に特徴的な腸内細菌だということ明らかになりました。

続いて上の図(a)を見てください。このグラフは競技の前後に便のサンプリングを行い、競技の前後でベイロネラの割合を比較しているのですが、興味深いことに競技の前と比べて後の方がややベイロネラの割合が高いように見えます。

実は、この前後でベイロネラの割合が変わったことの意味を私は明確に説明できないのですが、最後のまとめで少し触れたいと思います。

ベイロネラは選手のパフォーマンス向上にも関わっている!

この研究では、ベイロネラにどのような機能があるのかを、様々な試験で明らかにしているのですが、最も端的に表している試験が、図(b)のトレッドミル走行試験になると思います。

この試験は、ベイロネラ(ここではatypica種)とコントロール群として乳酸菌(ここではbulgaricus種)をマウスに移植して走行時間を測定する試験を行っています。どうもこのトレッドミル走行時間はマウスによるバラつきがとても多い試験のようで、個体差を取り除いて解析ができるクロスオーバーデザインを取っています。

そして、上の図(b)からも明らかなように、ベイロネラを移植させたマウスではより走行時間が伸びているということが明らかになりました。マラソン選手に特徴的な腸内細菌を移植させたマウスで運動のパフォーマンスが上がるというのは非常に興味深い話ですよね。

次に、そのメカニズムについて紹介をしたいと思います。

メカニズムは乳酸をプロピオン酸に代謝する機能

参考文献から改変引用

ベイロネラには乳酸を代謝してプロピオン酸を産生する機能があることが、遺伝子などの情報から分かっています。実際に、図(c)を見ると、ベイロネラと乳酸菌を培養させた培地に産生された代謝産物を比較する試験で、通常の乳酸菌と比較してベイロネラでは圧倒的にプロピオン酸を産生していることが分かりますね。

乳酸菌は疲労蓄積物質と言われることもありますが、(賛否あると思いますので、その議論について言及はしませんが、)疲労蓄積物質と言われることがあることからも、スポーツ選手と乳酸の関連があってもおかしくはないんじゃないかと思います。

今回の試験からは、この乳酸をプロピオン酸に変えることでパフォーマンスが向上する可能性があることが分かります。ちなみに、乳酸が少ない方が良いのか、プロピオン酸が多い方がいいのかについては、図(d)でプロピオン酸をマウスに注入すると走行時間が延びるという結果が出ており、プロピオン酸が大事そうです。

まとめ

ここまで読んで下さりありがとうございます。いかがでしたか?この論文は非常に興味深い情報が詰まっていますよね。この論文が発表されたとき、これほどまでに、キレイにパフォーマンスを高めてくれるような腸内細菌は初めてで、衝撃を受けたのを思い出します。

一方で疑問点は、運動前後でベイロネラがなぜ増加したのかが少しもやっとします。もしかしたら、競技を行うことでよって乳酸が一時的に増加するため、ベイロネラが増加し、蓄積した乳酸をプロピオン酸に変えてくれているのかもしれません。

さて、このベイロネラは比較的メジャーな腸内細菌です。しかし、それでも保有している人は65%くらいになりますので、3~4割の方は保有していません(外部リンク)。もし自分が保有しているか気になる方は測定をしてみるのもよいかもしれません。

簡単にできる測定方法の中では、下記のマイキンソーがオススメです。次世代シークエンサーという測定器で分析している点が比較的、信頼性も高いのかなと思っています。

また、今回の記事で私が一番すごいなと思ったことは、腸内細菌が私たちのパフォーマンスをサポートしたりすることがあるということです。ですが、これに関していうと、マラソンであればベイロネアと言うことが今回の論文からは分かりましたが、他のスポーツやビジネスマンなど、競技や職業が違えば必要となる機能もおそらく変わってきます。

そういう意味では、多くの人は、ベイロネアという特定の腸内細菌にこだわるのではなく、自分の腸内細菌の中で有用なものを増やすように意識することが結局のところ一番大事なのかなと思います。

その場合には、ヨーグルトやサプリメントなどから乳酸菌、ビフィズス菌などの腸内細菌を摂取するプロバイオティクスではなく、海藻や大麦などの食物繊維が多い素材(プレバイオティクス)を意識して摂取することが大事になってくるかなと思いました。

参考文献

Meta-omics analysis of elite athletes identifies a performance-enhancing microbe that functions via lactate metabolism. Jonathan Scheiman, Jacob M. Luber, Theodore A. Chavkin, Tara MacDonald, Angela Tung, Loc-Duyen Pham, Marsha C. Wibowo, Renee C. Wurth, Sukanya Punthambaker, Braden T. Tierney, Zhen Yang, Mohammad W. Hattab, Julian Avila-Pacheco, Clary B. Clish, Sarah Lessard, George M. Church & Aleksandar D. Kostic. Nature Medicine volume 25, pages1104–1109(2019) LINK

  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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