健康

疫学研究の種類

2020-11-27

この記事をご覧いただき、ありがとうございます。この記事は病気の原因を調べるための研究分野である「疫学研究」の基礎を知ることを目的に書きました。疫学研究の基礎を知ることで目指すゴールは、疫学論文を読んで理解するための最低限の知識を得ることです。疫学という言葉をはじめて言葉を聞くような方に向けて書いているので、専門家やご自身の研究で必要な情報を探しているという方にとっては物足りないかもしれませんが、ご了承ください。

この記事を書いている私のプロフィールはこちらにのっています。記事の信頼性などの参考にしてください。

この記事では、研究デザインの種類について紹介をします。細かい内容というよりも、どんな研究デザインがあるのかをざーっと知りたいという方に向けてまとめました。

疫学ってなに?公衆衛生ってなに?

疫学とは、集団で起こる病気の分布とその原因について研究する学問です。

わたしはド素人のまま、大学院に入学したこともあり、最初は疫学と公衆衛生などの言葉が出てきたときに、これらがそもそも違うことを表しているのかも良く分かりませんでした。

教科書を読んでいて、疫学研究のことを言ってるのか、公衆衛生の話をしているのか、どちらとも取れるような文脈があったりしたので、疫学と公衆衛生って意味が違うんですか?という質問をしたことを覚えています。すごく分かりやすいレベル1の状態です(笑)。

公衆衛生は、地域社会の人々の健康の保持・増進をはかり、疾病を予防するため、公私の保健機関や諸組織によって行われる衛生活動。母子保健・学校保健・老人保健・環境衛生・生活習慣病対策・感染症予防など(Weblio)と定義されています。

疫学が研究活動で公衆衛生は保健活動ととらえれば良いのかもしれません。

ポイント
・疫学とは、集団で起こる病気の分布とその原因について研究する学問
・公衆衛生は、地域社会の人々の健康の保持・増進をはかり、疾病を予防するため、公私の保健機関や諸組織によって行われる衛生活動

観察研究と介入研究の違い

介入とはなにか?

疫学研究は大きく、観察研究と介入研究に分かれます。観察研究は介入をしない研究です。では、介入とは何でしょうか?

介入というのは、研究参加者に、研究目的で健康に関わる行為の有無や程度をコントロールする行為を言います。例えば、治療薬の試験で従来の薬を飲んでもらう人と新薬を飲んでもらう人に分けたりすることを言います。

介入をすることで、効果を知りたい項目について、ランダムに参加者に割付ができることが大きなメリットです。しかし、その一方で研究参加者にとっては、本来、自分で医薬品などを選択する権利を失ってしまうという、不利益が発生します。

では、次に観察研究、介入研究の代表的な研究デザインとその特徴を紹介したいと思います。

観察研究の代表的な研究デザイン

横断研究:横断研究はある1時点のデータを解析する研究です。横断研究はスナップショットと考えるといいと思います。病気の分布などを知ることができ、さまざまな研究の仮説を立てるのに有用です。

縦断研究:縦断研究というのは、おなじ参加者のデータを複数回測定する研究のことで、参加者の変化を知ることができます。そして、変化の前後関係から原因と結果の関係、つまり因果関係を推論することができます。

前向きコホート研究:前向きコホート研究は、もっとも代表的な縦断研究です。コホートというのは、ある特定の条件下にある集団を意味していて、もともとの語源は軍隊のようです。前向きというのは、ある時を起点に参加者を追跡していくことを意味します。つまり時間の流れと同じ方向に追跡するので前向きと言うようですが、今はほとんどの教科書を見ても、前向きという言葉に重きは置いていないように感じます。デメリットは非常にお金と時間がかかります。

ケースコントロール研究(症例対照研究):ケースコントロール研究は追跡終了時に目的とする病気にかかった人をケース、かかっていない人をコントロールとして参加者をピックアップして解析する研究です。非常に珍しい病気の研究をする場合には、病気にかかっていない人の人数がものすごく多くなってしまいます。そこで、解析対象者を減らすことができるというのがケースコントロール研究です。コストパフォーマンスの高さが魅力です。

介入研究の代表的な研究デザイン

ランダム化比較研究(RCT):介入群とコントロール群に参加者をランダムで分けて試験を行う研究です。もっともエビデンスレベルが高く、臨床研究のゴールドスタンダードと言われています。これは、ランダム割り付けによって、理論上、すべてのバイアスや交絡を取り除くことができるからです。ただし、非常に厳格な試験設計は現実的にできないことも多く、限界があります。

ポイント
・疫学研究には介入研究と観察研究がある。
・介入というのは、研究参加者に、研究目的で健康に関わる行為の有無や程度をコントロールする行為をいう。
・観察研究には、ある1時点のデータを解析する横断研究と、複数時点のデータを解析する縦断研究がある。
・代表的な縦断研究には前向きコホート研究や症例対照研究(ケースコントロール研究)などがある。
・介入研究の代表的なデザインはランダム化比較試験(RCT)。

多くの疫学論文はここで紹介した研究デザインを使っています。詳細な説明はまた別の記事で紹介したいと思います。

参考資料

  • ICR臨床研究入門(臨床研究の基礎知識講座(旧 臨床研究入門初級編);2. 治療開発のための研究1:臨床試験)LINK
  • ICR臨床研究入門(臨床研究の基礎知識講座(旧 臨床研究入門初級編);10.「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の解説)LINK
  • Leon Gordis著、木原正博・木原雅子・加治正行訳、疫学 医学的研究と実践のサイエンス LINK
  • 東京大学社会予防疫学研究室ウェブサイト(講義資料) LINK
  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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