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災害で懸念される病気と栄養状態ー東日本大震災を例にー

2020-07-03

はじめまして、こんにちは。先日まで、世界195ヶ国の食と健康に関する情報を中心に記事を書いていましたが、一区切りしたので、そろそろ新しいテーマに入ろうと思っています。

今日の内容は、最近、わたしの中で気になっている災害について情報をまとめることにしました。本当は災害食について記事を書きたくて準備をしていたのですが、あまりに重要な内容で、間違った情報を伝えたらというプレッシャーもあり、外堀を埋めるような情報を中心に今日の記事は考えたいと思います。

この記事では、主に東日本大震災の事例を参照にしながら、①災害時、公衆衛生上どんなことに気をつけなければいけないのかを厚生労働省のHPでまとまっている内容を参考にまとめました。つぎに②東日本大震災で避難生活をした方の生活習慣病のリスクを疾病ごとに紹介します。そして③避難所で生活をする場合にどのような栄養面でのリスクが想定されるのかを紹介したいと思います。

わたしはどうしても素人で、間違った考えとかが入ってしまうと、迷惑をかけてしまいますので、今回の記事では、調べた内容を淡々と書いていきたいと思います。わたしの個人的な見解は別の記事に分けたいと思います。

災害って身近なのに、ちゃんと考えられていないところがありますよね。わたしは、それは怠慢なのではなく、何が必要なのかという情報が分かりにくいことが原因だと思っています。

ですので、災害でどんなことが起こっていたのか、具体的な事例をまとめることで、少しでも役立てていただければと思います。

災害時に注意が必要な疾病

はじめに、災害時にどんな病気が注意が必要なのかをまとめたいと思います。記事の最後に参考にしたウェブサイトや論文などをまとめておきますので、原本を確認したい場合には参考にしてください。

たぶん、あ~そうだよな~と思う内容ばかりなのでざっと見るだけでいいんじゃないかと思い、細かい説明は避けます!

感染症

これは、今、コロナで大変な状況なのでリアルに分かりますよね。災害に避難所などは3密になりやすいので感染症が広がってしまうと重大なリスクとなります。下痢や嘔吐などの症状が見られたら、感染症の可能性もあるのでしっかりと健康状態を注意するようにしましょう。

粉じん吸引

建物などが崩壊した場合の粉じんは非常に気をつけなければいけません。粉じんを吸引するリスクが高い場所で作業などを行う場合にはマスクを着用するなど注意しましょう。とくに粉じん由来の肺炎などになる可能性もあります。

慢性疾患の悪化

糖尿病、高血圧をはじめ慢性疾患は継続的な治療が必要不可欠です。災害時の薬を普段から準備しておくとともに、災害が起こった時にも軽く見ないで、しっかりと医師に相談をして対応するようにしましょう。

エコノミークラス症候群・運動不足

避難所や車中などで生活をすることで起こる可能性があります。とにかく定期的な運動などをしましょう。一度筋肉がかたくなってしまうと動かなくなってしまい、要介護や認知症のリスクにもなりえます。

熱中症・低体温症

災害時にはエアコンやストーブなどが使えない可能性が十分に考えられます。対応できることは限られるかもしれませんが、熱中症対策に水分はしっかりととるようにしましょう。また、少しでも異常を感じた場合には医師に相談しましょう。特に高齢者は暑さを感じにくいので注意をしましょう。

口腔内衛生

水を節約するために歯の手入れがおろそかになりがちです。また、どうしても虫歯の治療などを後回しにしてしまうと思います。致し方ない点もあると思いますが、口腔内環境は全身の健康につながるというエビデンスも増えています。気をつけましょう。マウスウォッシュがあるとよいかなと思います。

一酸化炭素中毒

災害時、発電機や木炭などを使う機会は増えます。一酸化炭素は無臭、無色ですので、このような場合には必ず喚起をしっかり行うように注意をしてください。とくに屋内で密集していたり、車中で長時間いる場合には気をつけてください。

アレルギー

災害時には、環境が大きく変わりますので、アレルギーが発症しやすいです。わたしはアレルギー持ちなので、季節の変わり目などに悪化することが多々あり、すごく良く分かるな~と思いました。

メンタルヘルス

これは言うまでもありませんが、強烈なストレス下で精神疾患が悪化したり、発症したりする可能性があります。

東日本大震災での避難地域の生活習慣病の増加

災害時には生活環境の悪化や栄養の偏りによって生活習慣病のリスクが高くなるというのはなんとなくそうだろうな~と思うかもしれませんが、実際にどうだったのかをエビデンスを紹介したいと思います。

この論文(参考2)では福島県の福島第一原子力発電所の事故を受け、避難区域に住んでいた人と、住んでいなかった人の健康状態を比較した論文です。

参加者の住んでいる地域(論文より改変引用)

上の図が参加者の住んでいた地域をまとめたものです。福島県内の避難区域と避難区域と隣接している地域を1年間比較した研究になります。

で、この結果、避難所で生活していることで生活習慣病を発症するリスク(オッズ比)が1.72倍も高いという結果でした。

また、生活習慣病関連指標の変化を見ると下記のようになります。

対照区域(男性)変化量避難区域(男性)変化量対照区域(女性)変化量避難区域(女性)変化量
生活習慣病発症%11%19%5%7%
BMI+0.1+0.8+0.2+0.4
拡張期血圧 mmHg+0.7+1.4+0.7+1.8
中性脂肪 mg/dL+9.1+18.1+4.4+12.4
LDL-コレステロール mg/dL+0.4-17.2-0.5+3.2
空腹時血糖 mg/dL+0+3+0+3
HbA1c+0+0-0.1+0

結果を見ると、BMI、拡張期血圧、中性脂肪、空腹時血糖と軒並み値が上がってそうですね。男性のコレステロールがめちゃくちゃ下がっているのがイマイチ良く分かりませんが、避難区域にいるというだけで、何をしているわけでもないのにこれだけリスクが上がるというのは非常に深刻な話ですよね。

めちゃくちゃ淡々と進めていますが、次に、食事に焦点を当てて、論文を紹介したいと思います。

東日本大震災での避難所の栄養状況

ここでは、実際に避難所などで過ごした方の食事を写真等で集めて、解析した論文を紹介したいと思います(参考3)。この論文では3743枚と、かなりの数の写真を週刊誌、写真家、新聞社などから集め、避難所生活何日目かがはっきりわかるもの、そして栄養計算が可能な写真を厳選して解析を行った論文です。

面白いなと思ったのは、情報源は週刊誌が85%と最も多いのですが、実際で使った写真は348枚でその中では写真家が最も多かったようです。ただ、いずれにしても写真を撮っている人たちは、避難所らしさが出るような写真を好んでとる場合もあるでしょうし、逆に写真を撮影される側は、少し見栄を張った食事を出す場合もあり、何かしらバイアスはありそうだなと思いましたが、写真からの栄養計算はかなり正確にできることが分かっています。

そして、その結果が下記の通りです。

  • エネルギーが2000 kcalを超えたのは震災40日後
  • タンパク質が基準値65 gを超えたのは震災90日後
  • 脂質、炭水化物が基準値を超えたのは震災30日後
  • ナトリウムは24時間以内に基準値を超える
  • カルシウムが基準値600 mgを超えたのは震災107日後

という感じで、割と想像に近い結果と言えるのではないでしょうか?震災後30日の間は食料が不足しがちになること、そして同時にカロリーを摂取することが優先課題となりますので、栄養は自然と脂質、炭水化物に偏ってしまっています。

また、ミネラルでは食塩の過剰摂取が顕著なのと、カルシウムが基準値を超えないという問題がありました。本文を見ると避難所の朝食では牛乳とパンが配られているのかもしれませんが、それでもカルシウムは足りないんですね。

まとめ

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。ちょっとまとまりがない感じですが、この記事は以上になります。日本は災害大国なので、海外よりも質の高い文献が沢山あったりします。わたしのイメージでは、国際学会でも日本の災害の講演はすごく注目されるなあという印象です。

さて、この記事のポイントを整理すると、

  • 災害時には、感染症、慢性疾患の悪化、メンタルヘルスをはじめ、様々な疾病のリスクが高まります。どんな疾病のリスクが上がるのかを理解して、予め対策を考えることがとても大切です。
  • 避難区域の住民を1年間追跡した研究では、避難区域に住んでいた人はそうでない人と比べて生活習慣病のリスクが1.7倍も増加しました。
  • 避難所生活では様々な栄養が不足しますが、特にタンパク質、カルシウムなどの不足が目立ちます。塩分の摂りすぎや、脂質、炭水化物に偏った食事に気をつけることが大切です。

という感じになります。次回の記事では、この内容を振り返りながら、災害食についてもう少し具体的に考えていきたいなと思っています。災害対策は考え出すときりがなくて、対策しないよりはした方がいいに決まっているので、どこまでやったらいいのか本当に分からなくなってしまいます。

ですので、いい感じがどれくらいなのかなあというのをわたしなりにまとめたいと思います。この記事が少しでも役に立ったら嬉しいです。それでは。

参考文献

  1. 「避難所生活を過ごされる方々の健康管理に関するガイドライン」について(厚生労働省) 事 務 連 絡 平成23年6月3日 都道府県 各 政令指定都市 保健衛生主管部局 御中 保健所設置
  2. Influence of Post-disaster Evacuation on Incidence of Metabolic Syndrome. Shigeatsu Hashimoto, Masato Nagai, [...], and Fukushima Health Management Survey Group, J Atheroscler Thromb. 2017 Mar 1; 24(3): 327–337.doi: 10.5551/jat.35824
  3. 発災後の避難所生活における栄養管理に関する研究 : 東日本大震災の食事画像分析から、廣内智子、島田郁子、荻沼一男、日本災害食学会誌 4(2), 79-93, 2017-03
  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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