健康

死亡のリスクを高める要因57項目をランキングにした論文紹介

はじめに

こんにちは。この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。この記事では、長生きに関連する要因を、なんと57項目も調べて、比較した論文を紹介したいと思います。

この論文のおもしろい所は、

  • 健康行動
  • 社会的なつながり
  • 社会経済的要因
  • 子供のころの悪い経験
  • 青年期の悪い経験

5つのカテゴリーから、死亡のリスクを上げそうな要因を比較して、ランキングにしている点です。

喫煙と飲酒はどちらが悪いの?ということは比べやすいかもしれませんが、喫煙、飲酒、離婚の経験、子供のころの貧困を比べようと思っても、あまり論文とか見たことが無いんじゃないかと思います。

この論文では、そんなカテゴリーが異なるリスク要因を全て比較して、ランキングにしていて結構面白いなと思いました。

Pon(ブロガー)
食品会社勤務。社会人博士課程の大学院生。腸内細菌や食品の機能性研究、公衆衛生などに興味があります。Twitterはこちら。気になった論文を共有したりしています。

死亡リスクを高める行動のランキング

とりあえず結果(ランキング)を紹介

はじめに、まずは結果を紹介したいと思います。

57項目を全て並べているので、ダラダラとした感じもありますが、せっかくなので全部の結果を紹介したいと思います。

表は死亡リスクが高い順に並べました。HRと書いてあるのがリスクの比です。つまりその要因に当てはまる人が、6年以内に死亡するリスクが何倍高くなるかを示しています。

解説などは、後でまとめてしたいと思いますが、この表を眺めているだけでも結構面白いんじゃないかなーと思いますので、時間があれば、じっくり見ていただければと思います。

順位変数カテゴリーHR
1現在の喫煙者健康行動1.91 
2離婚歴社会的つながり1.45 
3アルコール依存症健康行動1.36 
4最近の経済的困難社会経済的要因1.32 
5失業の経験社会経済的要因1.32 
6喫煙の経験健康行動1.32 
7生活満足度の低下心理的特性1.31 
8結婚したことがない社会的つながり1.30 
9フードスタンプの利用歴社会経済的要因1.28 
10ネガティブな感情心理的特性1.23 
11家族とのネガティブな相互作用社会的つながり1.23 
12子どもとのネガティブな相互作用社会的つながり1.22 
13日常的な差別成人期の有害な経験1.22 
14精神的不安心理的特性1.21 
15子どもとのポジティブな相互作用の低下社会的つながり1.21 
16子ども時代の心理社会的逆境幼少期の有害な経験1.20 
17怒りの発散心理的特性1.18 
18大きな差別を受けた成人期の有害な経験1.17 
19友人とのネガティブなやりとり社会的つながり1.17 
20敵意心理的特性1.16 
21悲観的心理的特性1.16 
22活動量が少ない/しない健康行動1.15 
23食糧不安の履歴社会経済的要因1.14 
24絶望感心理的特性1.14 
25肯定的感情の低下心理的特性1.14 
26楽観性の低下心理的特性1.13 
27職業上の地位の低下社会経済的要因1.13 
28富の低下社会経済的要因1.13 
29メディケイドの利用歴社会経済的要因1.13 
30近所の安全性の低下社会経済的要因1.13 
31怒りの感情心理的特性1.13 
32孤独感心理的特性1.12 
33近所の結束力の低下社会経済的要因1.12 
34適度な活動が少ない/ない健康行動1.12 
35生きがいの低下心理的特性1.12 
36近所付き合いの乱れ社会経済的要因1.11 
37睡眠障害健康行動1.11 
38家族との積極的な交流の低下社会的つながり1.11 
39良心性の低下心理的特性1.10 
40障害に対する認識心理的特性1.09 
41神経症の低下心理的特性1.09 
42外向性の低下心理的特性1.09 
43収入の低さ社会経済的要因1.07ns
44教育水準の低さ社会経済的要因1.07ns
45幼少期に経済的援助を受けた家族幼少期の有害な経験1.07ns
46達成感の低下心理的特性1.06ns
47父親の職業的地位の低さ幼少期の有害な経験1.06ns
48借家の経験社会経済的要因1.04ns
49子供の頃に転居した家幼少期の有害な経験1.03ns
50経験に対する開放性の低さ心理的特性1.02ns
51信仰心の低さ心理的特性1.00ns
52低学歴の父親幼少期の有害な経験0.98ns
53父親が子供の頃に無職だった幼少期の有害な経験0.97ns
54友人との積極的な交流が少ない社会的つながり0.96ns
55同意性の低下心理的特性0.94ns
56成人期の心理社会的逆境成人期の有害な経験0.93ns
57低学歴の母親幼少期の有害な経験0.86 
参考文献より改変引用(nsは有意差なしという意味)

主なポイント(30%以上死亡のリスクを高めた項目)

さて、結果ですが論文のアブストラクトには下記のようにまとめられています。

アメリカの高齢者の死亡率を予測する要因として、喫煙、アルコール依存、運動不足といった行動上の危険因子に加えて、経済的な要因(最近の経済的困難、失業歴など)、社会的な要因(子供時代の不幸、離婚歴など)、心理的な要因(ネガティブな感情など)が挙げられることがわかった。

ということで、正直なところ、なんとなく悪そうな経験や行動は大体死亡のリスクを上げるんですが、中でも、6年以内の死亡リスクを30%以上高めた恐ろしい項目は、

1 現在の喫煙 +91%
2 離婚歴 +45%
3 アルコール依存症 +36%
4 最近の貧困経験 +32%
5 失業の経験 +32%
6 過去の喫煙 +32%
7 生活満足度の低下 +31%
8 結婚したことが無い +30%

でした。

当てはまるものはありましたか?これは研究対象者が52歳以上なので、年齢が達していない方は参考程度にはなりますが、なかなか強烈ではないでしょうか?

喫煙は本人の意思の問題ではありますが、離婚や貧困経験、失業なんて本人の意思に関わらず、誰にでもあり得ることだと思います

離婚は45%死亡のリスクを上げるけど、結婚経験なしの場合にも30%も死亡リスクが上がるので、結婚生活が向かない性格の人は、基本的に気をつけたほうがよさそうです。笑

健康的な活動はタバコとアルコール依存症のリスクが高い

ここからはわたしの感じたことを書きますが、健康的な活動についてはお酒とタバコ以外はさほど影響が大きくはないんだなと思いました。

活動量が少ないこと(+20%)や睡眠障害(+11%)などは正直もっと死亡のリスクを上げてもおかしくはないと思いましたが、そうでもないんですね。

一方で、タバコ(+91%)は安定の1位だし、飲酒関連はアルコール依存症(+36%)のみですが、健康に関わる生活習慣としては非常にインパクトが大きいんだなと改めて思います。

近年は電子タバコも大分市民権を得ていますが、有害成分の量は激減していますが、ゼロになるわけではないので、十分に注意して欲しいなと思います。

心理的なリスク要因は基本的に生活の満足度に繋がっている

心理的特性とカテゴリーをつけた項目は論文に記載された分類に従っていますが、社会経済的要因や社会とのつながりなど、様々な項目と重なるので、表に記載したカテゴリーは一旦置いて、思ったことを書きたいと思います。

一番面白いと思ったのは、「生活の満足度の低下」(+31%)がもっとも高かったことです。

この言葉にいろいろ詰まっているんだろうな~と考えると興味深いと思いました。

ネガティブな考え(+23%)、不安(+21%)、怒り(+18%)など、様々な要因がランクの中にありますが、生活の満足度の低下がその中で1位だったことを考えると、最終的に、生活の満足度に繋がっているのかどうかという視点で物事を考えることが大事と言うことになりますね!

社会とのつながりは予想よりも低いが家族の影響は大きい!

最後に社会とのつながりについてですが、正直なところ、これは全体的に予想よりも低かったなと思いました。

友達が少ないことは、たばこよりも死亡のリスクが高いという有名な研究があり、イギリスでは、高齢者の孤独という社会課題の対策に孤独担当大臣というものを作ったことも有名な話です。

ですので、このような研究をした場合には、かなり上位に社会とのつながりという要因が出てくるものと思っていましたが、孤独感は+12%で、リスクではありますが、さほどインパクトの大きいものではなかったなと思いました

また、社会とのつながりの中で、圧倒的に大事なのが家族だったというのも、考えてみたら、納得なのですが、ここまでキレイに出ていて興味深いなと思いました。

幼少期・青年期の影響は十分に評価できなかった(この研究の問題点)

一応、この研究にはわりと大きな限界があります。それは、50歳以降のアンケートによる調査を行い、その後、6年間追跡した死亡リスクと言うことです。

これが意味することは、第一に幼少期の出来事や青年期の出来事はかなり記憶があいまいなはずです(学術用語では思い出しバイアス、想起バイアスと言います)。しかし、より重要なポイントとして、50歳まで生きている、生存者ということです(生存者バイアス)。

と言うのも、別の研究では幼少期、青年期に辛い経験にあった人は、そもそも50歳まで生存できる可能性が低いという報告がありました。そして、その理由には薬物中毒、自殺といった、かなり厳しい現実を感じさせる報告がありました

50歳まで生きた人にとっては幼少期、青年期の辛い経験は、死亡リスクに関わるかもしれませんが、その辛い経験を乗り越えたからこそのデータと言うことは考えさせられました。

さいごに

いかがでしたか?

この論文は昨年発表されて、わたしの中ではイチオシで面白いと思った論文の一つでした。健康に長生きしたいというのは誰もが思うことだと思いますが、そのためには、食事や運動習慣を気をつけるだけではダメなんだということが、強く証明された論文ですね。

わたしも勉強になりました!
それでは!

参考文献

Puterman, E., Weiss, J., Hives, B. A., Gemmill, A., Karasek, D., Mendes, W. B., & Rehkopf, D. H. (2020). Predicting mortality from 57 economic, behavioral, social, and psychological factors. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 117(28), 16273–16282. https://doi.org/10.1073/pnas.1918455117

食品会社勤務の企業研究員。公衆衛生の講座に在籍する、社会人博士課程の大学院生でもあります。食の機能性研究、腸内細菌の研究に軸を置いています。興味関心は公衆衛生、疫学。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Twitterやブログで発信しています。