初めに
こんにちは。この記事に興味を持ってくださり、ありがとうございます。私は常々、全粒穀物を食べようという主張をしています。このブログの中でも、例えば下記の記事などでは世界195ヶ国の食生活を調査した論文を紹介した記事で、最も疾病や死亡に影響を与えた食生活が「全粒穀物の不足」だったことを紹介しています。
ところが、先日、BMJという権威ある学術雑誌から、白米は、精製された穀物だけど、死亡リスクなどを上げないんじゃないか?という論文が発表され、とても衝撃を受けました。
これは白米をたくさん食べている日本人にとっては嬉しい研究結果だと思いますが、でも、なんで?と思いませんか?この記事では、このBMJの論文を紹介したいと思います。
この記事のポイント
- 精白した穀物は死亡や心血管疾患のリスクを上げます。
- 一方で全粒穀物はリスクを上げません。
- 白米は精白した穀物なのにリスクを上げません。
Pon(ブロガー/会社員/社会人大学院生) この記事を書いているわたしは、食品会社で機能性の研究などをしている企業研究員です。社会人大学院生として大学で疫学(病気の原因を調べる学問)を学んでいる学生でもあります。(詳しいプロフィールはこちら) |
全粒穀物は私たちが一番積極的に食べるべき食品
はじめに、私たちの食生活の中で、最も寿命に大きな影響を与えているのが何かご存じでしょうか?
それは、全粒穀物の不足なんです。下記に、Lancetという雑誌に2019年に掲載された論文の結果の一部を掲載しました。このグラフは世界195ヶ国の食生活のデータから、どのような食生活によって病気になり、生存時間が失われたかをランキングにしたデータです。
この結果を見ると、1位は全粒穀物の不足、2位は食塩の過剰摂取なんです。ちなみに、日本人だけのデータでは、食塩の過剰摂取が1位で、このときにはやっぱり日本人の食塩摂取量は高くて問題なんだなーと思っていました。
そんなわけで、全粒穀物の摂取は凄く重要なのですが、いくつかのポイントをあげると、
- 有効成分は外皮に含まれている食物繊維がメイン(他にも体によい微量成分は多く含まれます)
- 全粒穀物の強みの1つ目は、糖質と一緒に食物繊維を取るという理想的な食べ方が自然にできること
- 全粒穀物の強みの2つ目は、血糖値を急激に上げる「白い糖質」である小麦粉や白米と置き換えて食べることができること
- メカニズムとしては、食後の血糖値やコレステロール値の低下によって心血管疾患の予防になります
こういったことから、全粒穀物はすごくいいんだぞ!と言うこと自体は皆様、同意していただけるんじゃないかと思いますが、その一方で日本人では先ほども触れたように、食塩の影響の方が大きかったり、他にも、海外の研究結果とは異なり、日本人では穀物由来の食物繊維の摂取量と死亡リスクの低下は関連が無かったなどの研究が報告されていました(後ですこし解説します)。
つまり、日本人である私たちからすると、どっちやねん!?と思うような状況だったわけですが、この議論に対して、割と信ぴょう性がありそうな新たなエビデンスが発表されたというのが今回紹介する論文です。
白米が全粒穀物並みに死亡リスクを下げる衝撃の結果
では、どんな感じの論文が出たのでしょうか?今回紹介する論文は、BMJというイギリスの著名な医学誌です。4大医学誌の一つとも言われますが、どんな研究がされたかと言うと、地域や賃金レベルなどの偏りがない世界21ヶ国、約13万人を約10年間追跡して、食事と病気の関連を調べたという研究です。東アジアではマレーシア、フィリピン、中国が含まれますが、日本は残念ながら研究地域に含まれていません。
この研究では他の精白した穀物から白米を除いてカテゴリーを分けておりまして、その点がこの研究の面白さでもあります。つまり、白米は精白した穀物なのですが、この研究では精白した穀物には含まれていないということです。
上のグラフがこの研究のメインの結果になりますが、左から精白した穀物、全粒穀物、白米のグラフになり、死亡リスク(上)と心血管疾患のリスク(下)をのせています。
グラフの形を見ると、精白した穀物をたくさん食べるほど死亡リスクが上がる(右肩上がりのグラフ)のに対して、白米はたくさん食べるほど死亡リスクが下がるような関係(右肩下がり)が見られます。めちゃくちゃエビデンスが豊富な全粒穀物でさえも少し右肩上がりのグラフなので、白米の効果は凄いものがありそうです。
解析の中で少し注意しなければいけないのは、解析の際に糖尿病の有り無しで調整を行っています。つまり、糖尿病有り無しに関わらず今回の結果は言えるのですが、その一方で、お米を多く食べているアジア人に糖尿病が多いにもかかわらず、調整に入れているため、そういった点で結果をゆがめている可能性もあります。(ちょっと考察が難しいです)
炭水化物の摂取量が高すぎるのは良くないです
このような結果が出たら、お米を沢山食べるのはいいんじゃないかと思うかもしれません。それは事実なのですが、その一方で、炭水化物の取りすぎは注意です。
この研究で、炭水化物の摂取についてのまとめを見ると、
- 総エネルギー中の炭水化物が多いほど死亡リスクを上げる(200 kcal毎に+3%)
- 白パンの摂取も死亡リスクを上げる(200 kcal毎に+5%)
- 全粒穀物パンの摂取は死亡リスクを変えない
- 白米の摂取は死亡リスクを変えない
とあります。つまり、白米の摂取は死亡のリスクを上げないという点では大変よいのですが、全エネルギーの中の炭水化物の割合が高くなると、白米であっても、全粒穀物であってもあまり良くないということになります。つまり、お米はいいけど、バランスはちゃんと考えてね!と言えそうです。
白米の良さは、食事全体のバランスが良いから?
では、なぜ、このような結果になったのでしょうか?私は全粒穀物への関心が高く、主要な論文は一通り見ているつもりなのですが、これまで見てきた論文の中で、いくつか悩ましいデータがありました。
- 全粒穀物別に分析すると、玄米は死亡リスク低下効果がない(参考文献2)
- 日本人では、穀物由来の食物繊維による死亡リスクが下がらなかった(参考文献3)
というデータがあり、全粒穀物は死亡リスクを下げるというエビデンスが日本人ではあまり当てはまらないかもしれないことが示唆されていました。こういったデータは単に回答のばらつきや対象者の人数などで差が出なかっただけなのかな?と思っていました。
また、参考文献3では、白米の摂取量が多いのでその影響に埋もれてしまったのかもしれないという考察もされていました。
でも、この論文の結果を見ると白米自体が良いのだということは、あまりに予想外で、見落としていたな~と思いました。論文の中で、白米が他の精白した穀物よりも死亡リスクが低かった理由としては、白米を食べている人達の食生活は健康的な食生活との関連が強そうということです。
これはおそらく、全粒穀物にも言えて、全粒穀物を食べている人達とハンバーガー&ポテトを食べている人達では明らかに炭水化物以外の食生活に違いがありますよね。研究的に言うと、これは他の食事因子が交絡してしまい、本当は効果が無いはずなのに、見かけ上効果があったということになります。
これと同じように、白米を食べている人と小麦粉製品を食べている人では食生活が違う可能性があるということでした。たしかに、麺類やパンなどはほとんどおかずがなくても食べれるので、食事のバランスを気をつけないといけないとは思っていますが、そういったことが効いているということになりそうです。
白米ではなく、おかずが良いのかもしれない
ここまで読んで下さりありがとうございます。今回の論文は私にとっては興味深い内容でした。簡単にまとめると、
- 精白した穀物は死亡や心血管疾患のリスクを上げます。
- 一方で全粒穀物はリスクを上げません。
- 白米は精白した穀物なのにリスクを上げません。
- メカニズムは他の健康的な食事要因の交絡が考えられます。
ということでした。精白した穀物は明らかに食べやすく、パンや麺などに加工する際にもとても都合が良いため、私たちの主食として圧倒的なシェアを誇っています。
私は、そういった食生活に割と本気で危機感を感じていて、できるだけ大麦や雑穀などを混ぜたりしていました。ただ、食生活を気にし始めると、やっぱり全体で見ることがとても大切だと思うようになり、今ではできるだけバランスのよい食生活を意識しています。
この論文で分かったことも同じなんじゃないかと思いました。確かに主食は食べる量が多いので、健康への影響も大きいのですが、食事全体を見ることがとても大切と言うことですね。
最後にちょっとだけ宣伝をさせてください。下記は広告ですが、白米を中心にしたバランスの良い食事を提供されている宅配サービスをまとめました。バランスの良い食事を全て家庭で準備するというのは、現実的には不可能かなと私は思っていて、社員食堂や給食などのような恵まれたサポートがあればよいのですが、そうでない場合には、1日1食だけでも使ってみてはどうかな?と思っています。興味があれば覗いてみてください。
栄養バランス、カロリー制限などコースが豊富:メディカルフードサービス
低糖質、低塩分で値段も安め。筋トレ中の方にもおすすめ:NOSH - ナッシュ
最後、宣伝ですみません。宅食サービスは私も調べまくって、他にもたくさんあるのですが、私の中で絞った3つでした。それでは。
参考文献
- Swaminathan S, Dehghan M, Raj JM, et al. Associations of cereal grains intake with cardiovascular disease and mortality across 21 countries in Prospective Urban and Rural Epidemiology study: prospective cohort study. BMJ. 2021;372:m4948. Published 2021 Feb 3. doi:10.1136/bmj.m4948 LINK
- Aune D, Keum N, Giovannucci E, et al. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. BMJ. 2016;353:i2716. Published 2016 Jun 14. doi:10.1136/bmj.i2716 LINK
- Katagiri R, Goto A, Sawada N, et al. Dietary fiber intake and total and cause-specific mortality: the Japan Public Health Center-based prospective study. Am J Clin Nutr. 2020;111(5):1027-1035. doi:10.1093/ajcn/nqaa002 LINK
- GBD 2017 Diet Collaborators, Lancet 393:1958-1972 (2019), Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990–2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017 LINK