健康 腸内環境

腸内細菌研究の歴史と分析―腸内細菌検査サービスまで

2020-07-06

腸内細菌という言葉を初めて聞いたという人はほとんどいないと思います。ヨーグルトをはじめとする発酵食品のマーケティングでも、コロナ関係の免疫の話でもよく出てくるキーワードです。

そんな腸内細菌について、継続的に記事を書いていきたいと思います。

今回の記事ではなんで腸内細菌がこんなに注目されるようになったのか?について、腸内細菌の分析の歴史と共に紹介をしたいと思います。

メチニコフのブルガリア地方の健康長寿仮説が初期のブーム

メチニコフという方をご存じですか?ブルガリアヨーグルトと言えば、明治のとんでもなく大きなヨーグルトブランドですね。

ブルガリア地方では昔からヨーグルトが食べられていたようですが、メチニコフはブルガリア地方の人が健康で長生きなのはヨーグルトが原因ではないかという仮説を発表した人です。

これによって、ヨーグルトの健康効果が注目されるようになったそうです。ただ、Wikipediaなど、いくつかの情報をたどってみると、別にブルガリア地方の人が特別健康という統計があるわけでもないみたいです。

ただ、ここでヨーグルトの健康効果に着目したというのが、その後の腸内環境に関するリサーチクエスチョンを作り、研究を発展させたというのは間違いないと思います。

ちなみにこのメチニコフは1908年に免疫の研究でノーベル医学生理学賞を受賞したことで、とても著名な研究者です。

近年、研究が加速しているのはヒトゲノムプロジェクトの流れ

ではメチニコフ以降腸内細菌の研究がメチャクチャ進んだのかというとそういうわけではありません。

上の図では、gut(腸)と論文検索を行った時のヒット数を年代別に表しましたが、1950年以降に増え始め、2005年以降に指数関数的な伸び方をしています。

まず1950年頃は嫌気性菌の培養ができるようになりました。これによって様々な腸内細菌の分離、同定が行われました。

ただ、嫌気性菌の培養ができても、どうしても培養できない腸内細菌も多く、50~80%もの腸内細菌が培養できていないという報告もあります。

そして次のブレイクスルーが、今につながる次世代シークエンサーになります。ヒトゲノムプロジェクトが2000年に終了し、遺伝子解析技術の進歩が様々な生物に水平展開されることになり、その一つとして腸内細菌の解析も注目されるようになりました。

そんな中、秀抜な論文がNatureから発表されて腸内細菌めっちゃ面白い!ってなるんですが、それが2006年の米国のJ Gordonの研究チームが発表した肥満とやせを決める腸内細菌の研究です。

この研究では、肥満の人たちを1年間追跡して、腸内細菌と肥満の関係を証明し、注目を集めたんです。

そしてさらにその後2008年から欧州でMetaHIT(METAgenomics of the Human Intestinal Tract、予算約30億円)、米国ではHMP(Human Mirobiome Project、予算約120億円)という大きなプロジェクトで腸内細菌の解析がスタートしていきます。

今は、このMetaHITやHMPによって食習慣や遺伝的な違いなどによるヒトの腸内細菌の全体像が明らかになりつつあり、新しい研究仮説もたくさん生まれています。

分析コストの低下により今後さらに研究の加速が期待

グラフはイルミナのHPを参考に作成したざっくりしたものなので、参考程度です

もちろん、研究が進んで、分析もできるようになったというだけではありません。分析に必要なコストの壁が劇的に下がったという点もとても大きいです。

腸内細菌の分析に関しては大きく全ゲノム解析(ショットガンシーケンス法)と16S rRNA解析というのがあります。

前者は全ての遺伝子を解析するという方法で、後者は腸内細菌の同定に必要最小限の遺伝子だけを解析するという方法ですが、研究の目的によってこれらを使い分けることもでき、後者の場合には、サンプル数によっては1検体2~3万円で委託解析できます。

全ゲノム解析(ショットガンシーケンス法)は腸内細菌の全ての遺伝子を調べるので、腸内細菌がどのような機能を持っているのかといったメカニズムに迫ることができます。

16S rRNA解析法ではどんな腸内細菌叢(そう)なのか、全体像を調べることができます。

2000年には1検体のメタゲノム解析に1億ドルかかっていたのが、今ではメタゲノム解析で1000ドル強なので、とんでもなくコストが下がっています。

今は個人の腸内細菌も気軽に測定できます

16Sで自分の腸内細菌を知りたいという人は個人でも依頼できるようになりました。たとえば下記のマイキンソーなどは安くて、信頼性も高いのでオススメです。

1つ注意なのは、腸内細菌の分析については、私からするとゴミみたいなデータで腸内細菌測定5000円くらいとっている会社があるので、安い会社を安易に使うのはおすすめできないです。たぶん5年後、10年後にあの時ちゃんとしたデータをとっていれば・・・と後悔します。

自分の腸内細菌を知るというのは結構面白いもので、食生活に気を使っているつもりだったけれど、腸内細菌のデータを見ると偏っていたんじゃないかな~みたいなのが分かります(結果の見本はこちら)。

アマゾンのレビューを見ても、自分はこんなはずじゃなかった・・・みたいなノリのレビューがあって、あ~その気持ちわかるな~、でもそれがサイエンスなんだ!って思いましたね。(笑)

この結果を見るドキドキは一度は試してもらいたいな~と思いますし、何よりも5年後、10年後にめちゃくちゃ進歩している研究分野なので、少しでも健康なうちにデータをとっておくことで後々振り返ったりするときに有用だと思います。

こう考えると、マイキンソーの約1万円という価格はめちゃくちゃ安い気がします。(名前がややこしいんですが、マイキンソーは商品・サービス名で株式会社サイキンソーが会社名です。)

じゃあ、どんなことが分かるの?

最後に、腸内細菌の研究でどんなことが分かるの~?って言うことについて書きたいと思います。

まず、大事なことは、今の段階では個人の腸内細菌を測定してもあまり何も分かりません。研究が進んでいないというのが主ですが、薬事法などもあるので診断などはできないという理由もあります。

わたしが結果を見てドキドキしたり、色々考えられるのは、割とがっつり仕事で腸内環境の勉強をしているからですが、基本的には、腸内細菌の名前と数字が羅列されている感じなので考察は難しいですね。

今でもすこし結果に含まれていますが、そのうち機械学習と組み合わせることでどんな病気になりやすいかなどの推定が結果のメインになると思います。

別の記事などでも書いていきたいと思いますが、腸内細菌で比較的推定がしやすい病気などがあって、生活習慣病、大腸がんなどは腸内細菌の測定をすることでかなり高い精度でリスク判定ができるんじゃないかな~と思います。

大腸がんの診断は一番良いのは大腸カメラになりますが、怖いよ~っていう人も多いと思うので、その場合には全然痛くないし、家で済ませられる腸内細菌の検査というのは、将来的にはスクリーニング方法の一つにはなるかなとも思います。

まとめ

最後まで読んでくださりありがとうございました。今回からしばらく腸内細菌について書いていきますが、これからもどんどん発展していく分野なので食と健康の情報に比べると新しいワクワク感というのはあるかなあと思います。

いや、食事の研究も超大事だし、超おもしろいけど。

最後に個人での腸内細菌の測定についても書きましたが、今は結果だけ見ると満足度は人によっては低いかもしれません。でも、5年後、10年後に新しい研究結果が分かったときに、昔の自分の腸内細菌と比較ができると、ものすごい価値があります。

そんなに毎年のように測定する必要はないと思いますので、興味があれば、まずは1回試してみたらどうかな~と思います。

それでは。

参考文献

  1. 腸内細菌叢研究の現状と展望, 大野博司, ファルマシア, Vol.53 No.11 2017
  2. ヨーグルトの温故知新― ブルガリアの伝統的なヨーグルトを科学することで生まれた研究成果 ―, 堀内 啓史, 日本乳酸菌学会誌/23 巻 (2012) 3 号
  3. ヒト腸内メタゲノム解析が広げる医療展開, 山田拓司, 化学と生物 Vol. 51, No. 12, 2013
  4. Human gut microbes associated with obesity. Ruth E. Ley, Peter J. Turnbaugh, Samuel Klein & Jeffrey I. Gordon Nature 444, 1022–1023(2006)

  • この記事を書いた人

Pon

食品会社勤務の元企業研究員(PhD)。食の機能性研究、腸内細菌の研究をメインにしていました。興味関心は公衆衛生、疫学、食品の機能性。好きな食べ物はカレーと杏仁豆腐。コテンラジオ、キングダムが好きです。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Xやブログで発信しています。

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