はじめまして。こんにちは。この記事に興味をもって下さりありがとうございます。
健康食品の多くは「機能性成分〇〇 〇〇mg配合」なんていうキャッチコピーを使っていますね。これはとても大切なことで、例えばトマトにはリコピン、ニンジンにはβ-カロテンが含まれていて、これらの成分が健康のために重要だと思うのであれば、当然その成分の含量をしっかりと管理することはお客様に対しても重要です。
ですが、わたしが色々な論文を読んでいて気になることの一つとして、機能性成分ばかりに着目し、サプリメントなどで栄養成分を取り入れることで、素材そのものが持っている効果を失ってしまっている点です。
このサプリメントによる効果減少問題は認識している研究者は多いのですが、サプリメントの研究は基本的にはメーカーからの研究費や素材の提供で成り立っているので、大きく表面化しないという問題があります。
今回の記事ではこのサプリメント問題について、いくつかの情報からまとめてみたいと思います。
賛否両論の難消化性デキストリン
はじめに紹介したい事例は一番、メジャーで手軽にとることができる食物繊維素材で難消化性デキストリンという素材です。通称「難デキ」です。
この難デキは小林製薬のイージーファイバーや特定保健用食品や機能性表示食品をとっている多くの飲料の有効成分として使われている素材です。
この難デキは2017年に週刊新潮で批判的な記事が掲載されるなど、少しずつそのエビデンスにたいして疑問の声が上がり始めていますが、当時、トクホの3分の1を占めると言われたほど、圧倒的なシェアをほこっており、エビデンスに加えて、様々な食品に手軽に添加できる加工適正でも群を抜いている素材です。
わたしは食品会社で働いている立場ですので、かなりバイアスのある見解になりますが、わたしは難デキに対して、批判的な考えを伝えるつもりはありません。
エビデンス自体にウソがあるとは思っていませんし、加工適正なども含め、その使いやすさ、汎用性の高さは素晴らしい素材だと思っています。
ただ、難デキのエビデンスは難デキの「潜在的な効果=ポテンシャル」と製造者の松谷化学工業の「企業努力」の両方があってのエビデンスだということです。
正直に言って、企業努力によって機能性成分の本質的な力よりも遥かに大きいエビデンスを担保している素材というのはたくさんあります。
考えてみたら当たり前の話だと思うのですが、製薬メーカーと比べて研究開発費が格段に少なく、利益率も圧倒的に少ない食品メーカーが医薬品よりも手に取りやすい価格で、そんな機能性素材をバンバン開発できるというのは幻想です。
食品メーカーの機能性研究というのは、予算的にも、その研究費の回収問題でもストレスだらけの世界の中で、製薬業界に比べて倫理的配慮が取られるのが遅かったこともあり、世に出ている機能性食品の多くはバイアスがかかった研究を元にされています。
これは研究不正をしているということはないですが、研究デザインや対象者の選定など、場合によっては意図的に、バイアスのある研究をおこない、効果は過大評価気味というのは、珍しくないと言うことです。そして、難デキもそのような素材の一つということだと思います。
ただ、難デキは効果ゼロということをいう人もいますが、それは難デキを過大評価している人以上に間違った情報だと思います。
ちゃんとエビデンスはあります。ネガティブキャンペーンには振り回されないで、少しいいかもしれない程度に信じるというのが良いのではないかと思います。
(メーカー目線の見解ですみません。)
次にもう少し大きな研究で素材と成分を比較した研究を紹介したいと思います。
食物繊維よりも全粒穀物のほうが効果が高い!
次に紹介したいのは別の研究で、15の食事要因がわたしたちの早死や障害にどのように影響したかを研究した論文から考えたいと思います。
この研究については別の記事でも取り上げていますので、研究自体を詳しく知りたい方は是非読んでみてください。
GBD 2017 Diet Collaborators. Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet. 2019 May 11;393(10184):1958-1972
この研究は他にも示唆がたくさんあるのですが、今回は、その結果の中でも全粒穀物と食物繊維に着目したいと思います。
上のグラフはこの論文の結果の一つで、どのような食事の要因が死亡や障害に影響したのかをランキングにしたものです。
数字が大きければ大きいほど影響が大きいということになるのですが、今回着目したいのは全粒穀物と食物繊維です。
「全粒穀物」にふくまれる機能性成分は何かと聞かれたらわたしはまず「食物繊維」と答えます。でもこの結果を見ると明らかに全粒穀物と食物繊維では差がありますよね。
なんで食物繊維と全粒穀物でここまで差が出てしまうのかと言うのは、「成分」が大事なんだという人の意見がどれほど矛盾しているかを表している典型的な例の一つだと思います。
わたしの考えでは、食物繊維の機能で重要なものとして糖分の吸収を穏やかにする機能だと思うのです。そうすると炭水化物と一緒に食物繊維を摂取するというのがとても重要ということになります。
このことから、食物繊維単独ではなく、食物繊維と炭水化物が一緒になった全粒穀物のほうが、食物繊維の機能を発揮できやすいと言えます。
また、全粒穀物の食物繊維は外皮に多く含まれていて、中のでんぷん層を囲んでいるため、でんぷんに消化酵素が直接アタックするのを防いでいることもあり、糖分の吸収をおさえる機能は、さらに優れていると思います。
このようなことを考えると、全粒穀物は、「成分×食品の構造」の相乗効果があるんじゃないかと思います。
これは他の食品にも似たようなことがあり得るのではないかなあと思っていて、単純に機能性成分にとらわれてしまうと、その素材の合理的なメリットを失ってしまうことにもなりかねないと思います。
「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」の著書で示された例
次に、UCLAの津川友介先生の著書「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」で記されたサプリメントの例を紹介したいと思います。
リコピンが体に良いというエビデンスはない
トマトと言えばリコピンというのは多くの人が良く知っていることだと思います。ですが、本当にリコピンがいいの?と考えたことはありますでしょうか?
本当にリコピンが体に良いのであれば、トマト以外にもニンジンやスイカなどにも含まれていますので、このような食材も注目されそうですが、リコピンといったら、基本トマトですね。
このリコピンの機能に関する研究については、血中のリコピンの濃度が高ければ高いほど、がんや心筋梗塞が少ないという論文はあるそうです。
しかし、これだけでトマトという食材が大切なのか、リコピンが大切なのかを言及することはできません。あと、トマトの他の成分が効いている可能性だってあるよね。
そして、リコピンを抽出してサプリメントとして摂取することによる、がんや心筋梗塞の予防、死亡率の低下などのエビデンスはないそうです。ただ、LDL-コレステロールを下げるなど、血液データに関しては効果がある可能性はあるようです。
これだけ見ると、リコピンは確かにトマトの機能性成分の一つと言えそうですが、わざわざ抽出したサプリメントとしてリコピンを積極的に摂取するのをおすすめするようなエビデンスとしては弱いように思います。
そうであれば、リコピンだけ摂取していればよいと信じてサプリメントを摂取よりも、食材としてトマトをそのまま食べる方が、断然おすすめかなあと思います。
もちろん、トマトを食べれない人がサプリメントを摂取しているのかもしれませんが、その場合にはトマトの栄養成分の一部を失ってしまうことはあり得るということを認識することが大切かと思います。
βーカロテンはがんのリスクを上げる
リコピンよりももっと深刻なのは、βーカロテンです。
実はβーカロテンは1990年代の研究で、喫煙者やアスベストを吸ってしまった人たちを対象にビタミンAのサプリメントと一緒に摂取してもらい、がんの発症の関連を調べた研究がありました。
しかし、この研究ではβーカロテンが肺がんを予防するどころか、リスクを上げることが判明し、倫理的問題から、研究を中断してしまっています。
その後、様々な調査により、βーカロテンはサプリメントとして摂取すると7%死亡率を増加させ、アルコール飲料を飲む人にとっては、脳出血のリスクが高くなると結論付けられているとのことです。
このように緑黄色野菜には生活習慣病の予防などの健康的な報告があるのに対して、その機能性成分を抽出したサプリメントなどでは、明確に機能が証明されていません。
トマトのリコピンやニンジンのβーカロテンの例を考えると、「成分」よりも「食品」として注目することが大事と言えそうです。
さいごに
ここまで読んでくださりありがとうございました。本日の記事をまとめると以下のようになります。
・トクホなどで最もよく使われる難消化性デキストリンのエビデンスはちょっとあやしい。
・全粒穀物と食物繊維では、死亡・障害の予防効果にかなり大きな違いがあり、全粒穀物のほうが効果が高い。
・リコピンやβーカロテンのサプリメントを使った研究でもあまり明確な効果は認められておらず、βーカロテンはむしろ肺がんのリスクを上げる可能性がある。
・まとめると機能性成分にばかり着目してしまうと、ミスリーディングになってしまうので気をつけましょう。
このような研究結果って、実際にはそれなりに知られていることだと思うのですが、それでも日本では機能性成分至上主義というのはなかなか無くなりません
そもそも、トクホにしても機能性表示食品にしても原則的には効果のある機能性成分を明確に示し、その成分を担保することによってパッケージに機能を表示することができます。
もちろんそのほうが製造メーカーにとっては管理が明確ですし、消費者にとっても分かりやすい、などのメリットはありますが、成分によっては、それによるミスリーディングもおこる可能性があります。
こうなってしまっては、それはメーカーにとっても消費者にとっても何もメリットがない話になってしまうので、そのような誤解が無いように、食品の機能性成分に対する認識が変わるといいなあと思います。
さいごになりますが、今回紹介した津川友介先生の「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」、すごくおススメの1冊です。
食生活を改善することは長期的に見ると医療費の削減につながりますので、この本を読んで勉強すれば、絶対に本の代金くらい元は取れると思います。良かったら読んでみてください。