はじめに
こんにちは。この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。この記事では腸内細菌の変化と病気の関係について、興味深い論文(参考文献1)を紹介させていただきます。
この論文では、腸内細菌は健康な人ほど変動が小さく、疾患のリスクが高い人は変動が大きいという研究結果をまとめた論文です。
この結果自体はなんとなくイメージできますが、それを研究するということを考えたことが無かったので、面白そうだなと思い今回、ブログ記事に取り上げさせていただきます。
さっそく紹介したいと思います!
Pon(ブロガー・企業研究者・社会人大学院生) ブログを書いている企業研究者のPonです。食品の機能性や腸内環境の研究に興味があります。大学で疫学を学んでいます。Twitterなどもしています(Pon_yurublog)。気軽にフォロー頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。 |
腸内細菌の変化が大きい人は脂肪肝、糖尿病、肥満が多い!!
さっそく、今回紹介する論文の結果から紹介をしたいと思います。この論文では腸内細菌を測定後、5年たったところでもう一度腸内細菌を測定しています。
そして、5年間での個人内変動がどれだけ大きかったかをスコア化し、疾病や属性、アンケート調査などと比較を行っています。
上の図がその結果になりますが、上に示されている項目ほど、腸内細菌の変化が大きかった人と関連が高く、下に行くほど、腸内細菌の変化が小さかった人と関連が強かったことを意味します。
最も関連が高かったのは、なんと脂肪肝、続いて糖尿病、血糖コントロールが悪いこと(ヘモグロビンA1cの値が高いこと)、そして、BMIが高いことでした。糖尿病はわたしも論文でよく見ていましたし、患者も多いのでリーズナブルだと思いましたが、脂肪肝は論文が出ても、スルーしていたので意外でした。
※ 補足ですが、BMIが高いことは統計的には意味のある差ではなかったので、傾向があったくらいの表現が正しいです。
割と分かりやすく、生活習慣病との関連が高そうですね。
一方で、腸内細菌の変化が小さい人では、腸内細菌の種類が多い、世帯収入が高い、女性、膵臓(すい臓)の機能が正常という結果でした。
世帯収入は腸内細菌とは直接関係ありませんが、様々な生活習慣の代理変数と考えられます。例えば健康的な食生活、夜勤などのシフトワーカーが少ないなどの生活習慣との関連が強いのでそういった影響の代理変数となっていると思います。
つまり、腸内細菌の変化が大きいことは、生活習慣が乱れたり、疾病になりやすいと言ったリスクを抱えていると同時に、腸内細菌が変化しにくい腸内細菌叢というのは、細菌の種類が多いことがとても大事だと考えられます。
次に腸内細菌が変わりやすいっていうことはどういうことなのかを紹介したいと思います!
腸内細菌が変わりやすいってどういうこと?
ここからはこの論文の中で紹介されている、腸内細菌が変わりやすいということが、どういうことなのかを紹介したいと思います。
腸内細菌の結果は、よく2次元の座標にプロットして可視化されます。これは主座標分析(Principal Coordinate Analyses)と呼ばれる解析です。
主座標分析は腸内細菌の研究者にとってはお馴染みです!
どんな解析かと言うと、各腸内細菌の類似度を計算して、その類似度を距離として、2次元の地図に図示しています。
たとえば、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、仙台の距離を総当たりで測定して、それを2次元にプロットしたものが地図になりますね。この例(地図)の場合には、実際の距離を使っていますが、実際の距離の代わりに、類似度を算出してプロットしているのがこの主座標分析です。
今回紹介した論文では、ベースラインと5年後の類似度を測定して、「変化が大きい・小さい」という指標にしています。
類似度の計算はいくつかの計算方法があります。今回の論文で使われている類似度の計算方法はBray-Curtis法という方法です。類似度は値が大きいほど違いが大きく、値が小さいほど似ているということを表します。
詳細な説明は省きますが、Bray-Curtis法は腸内細菌の研究ではスタンダードな方法です!
上の図の右に載せたPCo1とPCo2というのは、左側の主座標分析のX座標(PCo1)とY座標(PCo2)の値をベースラインと5年後で比較したものです。大きな違いは見られませんが、X座標の方で有意な変動が認められたようです。
腸内細菌が多様であることがポイント
では、なぜ腸内細菌の変動と生活習慣病などに関係があるのでしょうか?
色々な説明ができますが、私が一番納得している説明は、病気に罹患した時、腸内が何かしらのストレスにさらされた時に、多様な腸内細菌を持っている人の方が想定外の状況に対応できるという説明です。
この説明では、腸内細菌の多様性が高いほど病気になりにくいということになりますが、同時に、多様性が高い腸内細菌では、特定の腸内細菌が極端な変動をしにくいとも言えます。
つまり、多くの研究者にとっても、腸内細菌の変動が小さいほど健康だという結果はリーズナブルな話だったと思うのですが、この視点で研究した論文を私は読んでいなかったので面白いなあと思いました。
下記の記事にもあるように、多様性指数が大事というのは、お馴染みですね!
一方で、原因と結果が全く逆転している可能性もあります。つまり、病気になったことによって腸内細菌のバランスが崩れてしまったという考えです。
このように、今回の研究では、腸内細菌の変動が小さく、安定しているから病気にならなかったのか、病気にならなかったために腸内細菌の変動が小さかったのかの因果を十分に説明することはできないのかなと思います。
因果の説明はむずかしいですね~!
腸内細菌と様々な疾病が互いに影響しあっていることは、近年、様々な研究で明らかになってきていることではありますが、この研究で出てきた変動の大きさという指標が今後も一般的になっていくのか分かりませんが、今回紹介した研究結果は、かなりキレの良いデータになっていると思いますので、私としては今後、注目したいなと思います。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
それでは!
参考文献
Long-term instability of the intestinal microbiome is associated with metabolic liver disease, low microbiota diversity, diabetes mellitus and impaired exocrine pancreatic function LINK