Cross sectional Ecological 横断研究 生態学研究
健康

横断研究・生態学研究

この記事をご覧いただき、ありがとうございます。この記事は病気の原因を調べるための研究分野である「疫学研究」の基礎を知ることを目的に書きました。疫学論文を読んで理解するための最低限の知識を得ることを目的に書いています。疫学という言葉をはじめて言葉を聞くような方に向けて書いているので、専門家やご自身の研究で必要な情報を探しているという方にとっては物足りないかもしれませんが、ご了承ください。

この記事を書いている私のプロフィールはこちらにのっています。この記事では、横断研究(Cross-sectional study)と生態学研究(Ecological study)について紹介をします。

横断研究とは

横断研究(Cross-sectional study)は集団のある一時点のデータから曝露とアウトカムの関係を調査する研究です。ある一時点のため、その集団での病気の感染状況が分かるなど有用なポイントがありますが、あくまでもスナップショットのように一時点を固定しているので因果推論という点では劣ります

因果関係というのは、必ず原因が先にあり、その後に結果が出ます。つまり因果推論を説明する上で非常に有効に働くのが原因と結果の順番性です。もちろんタバコと肺がんなどのように、肺がんになったら急にタバコを吸いたくなるなんていうことは考えにくい場合には、時間の影響が抜けていても有効な場合がありますが、因果関係というのは複雑で、変化の前後の比較ができないと説明がつかないようなことが沢山あります。

例えば、睡眠障害とスマートフォンの夜間使用時間の関係を調べて、関連性が見られた場合には、睡眠障害が起こって、昼夜逆転してしまい、その結果夜間のスマホ時間が増えることもあると思うし、夜間のスマホ時間が睡眠障害の原因になることだって考えられます。そして、リアルワールドではこれらの関係というのはお互いに原因でもあり結果でもあり、それが負のスパイラルのように回っているものと考えらえます。

このような関連性については、横断研究で解析をしても、あくまでも関連が分かるだけで、原因と結果なのかは言及できないというのがポイントになります

また、横断研究では因果の逆転が起こってしまうことがよくあります

これは、例えば食後の血糖値をゆるやかにすると言われているトクホの飲料があったとします。それを飲むと血糖値が下がることは期待されますが、おそらくその飲料を飲んでいる人というのは血糖値が高い人でしょう。

つまり、トクホ飲料を飲んでいる人の方が血糖値が低いですというデータを取りたくて、横断研究を行っても、おそらく血糖値が高いからトクホ飲料を飲んでいますという人の影響が強く出てしまい、期待していた結果と全く逆の結果になる可能性があるのです。

こういった点が横断研究の弱点となりますが、その一方で、横断研究ではその集団の特徴を把握したり、研究の仮説を立てるために有効に働きますのでうまく活用し、因果推論の考察については、あまり強い結論は言及しないことがとても大切です。

生態学研究とは

次に生態学研究(Ecological study)を紹介したいと思います。生態学研究というのは、集団間の違いを比較するような研究です。例えば都道府県別の1人当たりの車の所有数と生活習慣病の関係とかを調べると、車の数が多いほど生活習慣病が多いという傾向が分かったりします。

生態学研究は集団の違いがはっきりしている場合に面白い研究になります。たとえば、下記の記事ではIgA欠乏症の割合とCOVID-19死亡率に関する研究を紹介しましたが、これも生態学研究です。

他には、有名なものではフレンチパラドックスという言葉がありますが、フランス人は高脂肪食をたべているのに心疾患での死亡率が低いという研究があり、これが赤ワインに含まれるポリフェノールが効いているんだということで、ワインのブームに火をつけた研究でもあります。

生態学研究は面白い研究仮説が見つかる点と、相関解析などでグラフにすることで非常に分かりやすい結果が見られる点などが強みです。また、公的な統計情報は基本的に公開されている点や、個人情報を活用しない点などから、倫理審査などの負担がない点も魅力です

死亡率などは都道府県や国で割と傾向が異なっているので、集団間で大きな違いがあるような文化、生活習慣、遺伝的要因、社会的特性などがあれば、試してみるのも良いのではないかなと思います。

逆に生態学研究の弱点は、横断研究と同様ですが、因果の推論は弱いです。なぜなら個人ではなく集団しか見ていないので、例えばフランス人で心疾患にならなかった人がワインを飲んでいたかどうかは分かりません。ですので、ワインと心疾患の関連を知りたかったら、この生態学研究で得られた仮説を元に因果推論に有効な臨床研究やコホート研究をする必要があるのです。

まとめ

横断研究と生態学研究、これらの研究はどちらも因果推論に弱いという弱点がありますが、その反面、時間的な負担が少ない点で非常に有用な研究デザインです。コホート研究をする場合でも、まずはベースラインのデータで横断解析を行ったり、国の統計データで生態学調査を行い、先に発表することで、プレッシャーも少し減るのではないかなと思います。

こういう点でも大事ですよね。

参考資料

  1. Leon Gordis著、木原正博・木原雅子・加治正行訳、疫学 医学的研究と実践のサイエンス LINK
  2. The French paradox: lessons for other countries LINK

食品会社勤務の企業研究員。公衆衛生の講座に在籍する、社会人博士課程の大学院生でもあります。食の機能性研究、腸内細菌の研究に軸を置いています。興味関心は公衆衛生、疫学。統計の専門家に憧れます。興味のある研究について、Twitterやブログで発信しています。